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国土交通省航空局「国際航空貨物動態調査」はコロナ禍の中で2回実施 ~次回調査(第20回)は2024年度(令和6年度)に実施予定

国土交通省航空局「国際航空貨物動態調査」はコロナ禍の中で2回実施 ~次回調査(第20回)は2024年度(令和6年度)に実施予定

国土交通省航空局では、総務省の承認を得て実施する一般統計として、①「航空旅客動態調査」、②「国際航空旅客動態調査」、③「航空貨物動態調査」、④「国際航空貨物動態調査」の4つの統計調査を実施しています。このうち③と④については、これまで当社が継続的に受託・実施してきました。
③は日本国内発着の国内航空輸送貨物、④は日本発着の輸出入航空貨物を対象にしています(日本で積み替えられる中継貨物は含みません)。
本稿では④「国際航空貨物動態調査」について、まずこれまでの調査実施状況や調査の特徴・意義、他の航空貨物輸送関連統計との違いを明らかにします。
次に、直近の令和4年度・2年度調査結果から、コロナ禍への対応として活発に運航された「旅客機貨物便」の利用動向についてみることにします。
最後に、2024年度(令和6年度)に実施予定の次回調査結果において予想される変化について付言します。

これまでの調査実施状況
-30年以上の長期にわたり2年に1度定期的に実施

第1回調査は昭和60年度(1985年度)に実施されており、直近の最新調査は令和4年度(第19回)調査となります。最近の調査結果は国土交通省HPに掲載されています。

実施頻度は概ね2年に1度で、定期的に実施されています。調査実施日については、近年の調査では11月中下旬の1日(水曜日)に設定されていて「定点観測」の側面もあるため、複数年度の調査結果から経年変化分析を行うこともできます。

図表1 近年における「国際航空貨物動態調査」の実施状況

図表1 近年における「国際航空貨物動態調査」の実施状況

注)次回調査(第20回調査)の調査実施日は未定。

本調査の特徴・意義(他の航空貨物輸送関連統計との違い)
-貨物の発生地から最終到着地までの流れを追う唯一の調査

調査実施日1日におけるすべての取り扱い貨物(航空輸送貨物)を対象として、貨物の発生地から最終到着地までの流れ(動態)を把握していることが、本調査の特徴・意義であり、他の航空貨物輸送関連統計との違いです。
主要調査項目は、①貨物の発生・集中地(日本国内出発/到着地)、②通関場所(利用税関)、③積み込み・取り卸し空港(利用空港)、④相手先国・地域(海外出発/到着国・地域)で、①~④の項目間のクロス集計分析も行っています。

図表2 国際航空貨物動態調査の特徴・意義 ~他の航空貨物輸送関連統計との違い

図表2 国際航空貨物動態調査の特徴・意義 ~他の航空貨物輸送関連統計との違い

調査の実施方法

本調査では調査実施日(1日間)を設定して、航空貨物運送協会(JAFA)注)の国際部会会員フォワーダーにあらかじめ調査票を送信。調査日に取り扱ったすべての航空貨物について記入・回答を依頼し、調査票に記入・回答されたデータを集計・分析しています。
調査票では、上記①~④の主要項目のほか、貨物の品目や重量、荷送人施設からの発送日/荷受人施設への到着日、利用航空便名(運航者略号と便番号)や国内航空輸送の利用の有無などについても聞いています。
注)一般社団法人航空貨物運送協会(Japan Aircargo Forwarders Association)

航空貨物の輸送形態/輸送機材
-従来は①旅客便ベリー輸送と②貨物専用便(フレーター)の2択

従来、航空貨物の輸送形態/輸送機材としては、①旅客機の下部ベリースペースに貨物を搭載する方法と、②貨物専用便(フレーター)に貨物のみを搭載する方法の2つだけであり、コロナ禍前までは、①が航空貨物輸送の過半を占めていました。
2020年春からの新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、旅客定期便が大幅減便・運航停止となったことを受けて、旅客機に貨物のみを搭載して貨物専用便として運航する「旅客機貨物便」が、旅客便ベリー輸送の代替策として、多くの航空会社によって運航されました。
「旅客機貨物便」は、コロナ禍で遊休化した旅客機材とパイロットを活用して、新たな投資・コストや特別な手続きなしで運航できることや、旅客部門における赤字を貨物部門の収入で補えることが、航空会社にとっての大きなメリットとなりました。

図表3 航空貨物輸送の運航形態・運航機材

図表3 航空貨物輸送の運航形態・運航機材

注1)小型の機材では航空コンテナが搭載できない場合もある。
   また、旅客とその手荷物・郵便物の重量次第で、一般貨物が積載できない場合もある。
注2)”Passenger Aircraft” と “Freighter” を組み合わせた、”Preighter”という呼称もみられた。

「旅客機貨物便」の推測・判定方法
-調査票の記入・回答便名と航空時刻表の便名を照合

上記のとおり、調査票では利用航空便名についても聞いており、これを航空時刻表注)の便名と照合することで、利用便が「旅客便」「貨物専用便」「旅客機貨物便」のいずれであったかを推測・判定します。
「旅客機貨物便」の判定方法・フローは、以下の図に示すとおりです。調査票で回答された利用航空便名が航空時刻表の旅客便欄に掲載されていて、①「貨物専用」と表記されている場合、および②「運休中」と表記されている場合は、「旅客機貨物便」と推測・判定します。①は当初より「旅客機貨物便」としての運航が予定されていた便、②は結果的に「旅客機貨物便」として運航された便と考えられます。
調査票で回答された便名が航空時刻表にない場合は、調査日における航空局の運航情報とも照合・確認し、旅客機を使用した臨時貨物便・貨物チャーター便と推測・判定します。
なお、航空時刻表の旅客便欄では、2023年4月号以降は「貨物専用」の表記がみられず、「旅客機貨物便」の運航は段階的に縮小され、現在では完全に終了しているとみられます。
注)航空時刻表はフジインコーポレーテッド株式会社「月刊フジエアウエイズガイド:Fuji Airways Guide」を使用。

図表4:旅客機貨物便の判定方法・フロー
「旅客機貨物便」の推測・判定方法-調査票の記入・回答便名と航空時刻表の便名を照合

「旅客機貨物便」の利用割合・重量は令和2年度⇒4年度にかけて大幅に低下

以下では、コロナ禍の中で実施された令和2年度・4年度調査結果から、「旅客機貨物便」の利用動向の変化をみてみます。
令和2年度調査時には重量ベースで輸出貨物の9.8%、輸入貨物の4.3%が「旅客機貨物便」による輸送でしたが、4年度調査時には輸出は1.0%、輸入は1.4%と、いずれも1%台に低下しています。
令和2年度調査時に、輸出貨物で「旅客機貨物便」の利用割合がもっとも高かったのは羽田空港で2割を超えていましたが、4年度調査時には1%台に低下しています。
調査日における「旅客機貨物便」による輸送重量をみても、令和4年度調査時は2年度調査時から、輸出は10分の1、輸入は5分の1未満に減少しています。


図表5-1:空港別にみた「旅客機貨物便」の利用割合の変化(令和2年度⇒4年度)
①輸出
図表5-1:空港別にみた「旅客機貨物便」の利用割合の変化(令和2年度⇒4年度)①輸出

②輸入
図表5-1:空港別にみた「旅客機貨物便」の利用割合の変化(令和2年度⇒4年度)②輸入

出所)令和2年度・4年度国際航空貨物動態調査報告書より作成。

発着空港や相手先国・地域も令和2年度調査時から大幅に縮小

「旅客機貨物便」による輸出入貨物の発着空港構成比をみると、令和2年度調査時には成田以外のシェアが半数を超えていましたが、4年度調査時には成田のシェアが輸出で8割近く、輸入では95%超と成田への特化傾向がみられ、関西や羽田のシェアが低下しています。
相手先国・地域をみても、令和2年度調査時には幅広い国・地域との間で運航されていましたが、4年度調査時には中国、台湾、米国との間でのみの運航となっています。
このように令和4年度調査時には2年度調査時に比べて、「旅客機貨物便」による輸送が大幅に減少しています。旅客便の復便・運航再開が進む中で、「旅客機貨物便」として運航されていた旅客機が通常の旅客便としての運航に戻り、貨物便としての運航規模が縮小されていったことがうかがえます。

図表5-2:旅客機貨物便の利用空港構成比の変化(令和2年度⇒4年度)
①輸出
図表5-2:旅客機貨物便の利用空港構成比の変化(令和2年度⇒4年度)①輸出

②輸入
図表5-2:旅客機貨物便の利用空港構成比の変化(令和2年度⇒4年度)②輸入

出所)令和2年度・4年度国際航空貨物動態調査報告書より作成。

国際航空貨物輸送を取り巻く環境変化と次回調査(令和6年度)結果への影響

2024年度(令和6年度)は次回調査の実施が予定されており、調査実施日は近年における調査と同様、11月中下旬の水曜日に設定される見込みです。
前回調査時(令和4年度)から、日本の国際航空貨物輸送を取り巻く環境は大きく変化しており、次回調査結果にはその影響が様々な形であらわれることが予想されます。
国際旅客定期便の復便・運航再開の進展により、旅客便ベリー輸送の利用が回復・増加し、コロナ前(平成30年度)調査時の水準を上回る可能性があります。
貨物専用便についても、米インテグレーターのUPSが2023年2月から北九州空港への就航を開始しており、日本航空(JAL)が2024年2月から13年ぶりに自社貨物機の運航を再開することから、貨物専用便の利用増も見込まれます。
羽田空港では、2020年3月の発着枠の拡大・増便効果があらわれ、成田空港からの欧米線の移管の進展により、利用量・利用割合の大幅な増加が見込まれます。
次回調査は、トラックドライバーの年間総労働時間規制の強化後(2024年4月~)に実施されるため、「物流の2024年問題」の影響がみられる可能性もあります。具体的には、国内空港間での航空輸送利用の増加(長距離トラック輸送の代替)、輸出貨物では施設出発日から航空機搭載までの所要日数の増加、輸入貨物では航空機到着日から施設到着までの所要日数の増加などの変化が予想されます。

図表6:国際航空貨物輸送を取り巻く環境変化と次回(令和6年度)調査結果への影響
図表6:国際航空貨物輸送を取り巻く環境変化と次回(令和6年度)調査結果への影響

注1)2020年3月より発着枠が拡大される予定であったが、コロナ禍により2023年まで実質的に延期。
注2)世界の半導体受託生産最大手。英文正式名称:Taiwan Semiconductor Manufacturing Company
注3)第1工場は2022年4月に着工、2024年2月24日に開所式実施、同10~12月期に量産開始予定。
第2工場は2024年2月6日に建設公表。第1工場近隣に整備、24年内に着工、27年末迄に稼働予定。
出所)各種報道・記事よりNX総合研究所作成。

(この記事は2024年2月9日の状況をもとに書かれました。)

この記事の著者

◆出身地:神奈川県横浜市 ◆血液型:B型 ◆趣味:ピアノ演奏・カラオケ・鉄道旅行と写真撮影
1991年 慶應義塾大学 法学部 法律学科 卒業
1993年 慶応義塾大学 法学部 大学院民事法学科 修士課程修了
【得意分野】 ・海外物流事情、国際物流、国際航空/海上輸送に関する調査

通勤経路は JR 根岸線関内駅~新橋駅で、日本初の鉄道開通区間とほぼ同じ。横浜港は自宅から徒歩圏内にあり、近くには赤レンガ倉庫や汽車道、日本郵船歴史博物館、横浜市開港記念館、横浜みなと博物館、横浜税関資料展示室など、国際物流関連の施設も多数あります。
2011 年 4 月より5年間、神奈川大学で非常勤講師として国際物流の講義を担当しました。ほとんどの受講生は国際物流を初めて学ぶことになるため、国際物流を身近にイメージできるよう、横浜港やこれらの施設を訪れるよう勧めていました。横浜港付近はドラマのロケ地としてよく使われているので、その撮影現場がみられるかもしれません。
興味とお時間のある方、ぜひ横浜港までお越し下さい。

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