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「2024年度の経済と貨物輸送の見通し」(改訂)が2024年4月に公表 ~2024年度予測値を初改訂、2023年度予測値もあわせて見直し

「2024年度の経済と貨物輸送の見通し」(改訂)が2024年4月に公表 ~2024年度予測値を初改訂、2023年度予測値もあわせて見直し

当社では2024年4月18日に、当社が年4回定期的に発行している「経済と貨物輸送の見通し」の最新版として、「2024年度の経済と貨物輸送の見通し」(改訂)を公表しました。
今回の見通しでは、2024年度の貨物輸送量の対前年伸び率(予測値)を改訂。また、2023年度下期(23年10月~24年3月)の実績がまだ確定していないため、あわせて2023年度予測値も見直し・改訂しています。
本稿ではこれまでの投稿と同様、外貿コンテナ(海運)および国際航空(航空)輸送量の見通しについて、2023・2024年度予測値の前回見通し(2023年12月公表)からの修正幅や、2023年10-12月期実績値との誤差、対コロナ前(2019年度)増減率の推移を整理します。
また、国際貨物輸送を取り巻く直近の動向・環境変化を踏まえた想定(前提)シナリオの見直しや、予測値を上振れ/下振れさせる主要なポイント・ファクターについて付言します。

※見通し最新版の公表資料はこちらに掲載。

2023年度予測値は海運輸出が上方修正/輸入が下方修正に
円安による輸出押上げ/輸入下押し効果が想定を上回る

2023年度予測値については、海運輸出は前回見通し(1.6%増)から上方修正、海運輸入は前回(5.1%減)から下方修正しています。航空の修正幅は、輸出入ともに0-1ポイント台ときわめて小さく、微調整のレベルです。
海運の輸出を上方修正、輸入を下方修正したのは、2023年度下期に円安が進展・長期化し、輸出押上げ/輸入下押し効果が想定を上回ったことを踏まえたものです。とくに2023年10-12月期の海運輸出は5.7%増と、前回見通し(1.9%増)から3.8ポイントも上振れしています。

図表1-1:前回見通しからの修正幅/10-12月期実績値と前回予測値の誤差(2023年度)
図表1-1:前回見通しからの修正幅/10-12月期実績値と前回予測値の誤差(2023年度)
注1)▲:下方修正  無印:上方修正  pt:ポイント
注2)2023年10-12月期:外貿コンテナは見込み値、国際航空は実績値
出所)㈱NX総合研究所「2024年度の経済と貨物輸送の見通し(改訂)」(2024年4月18日公表)および「2023・2024年度の経済と貨物輸送の見通し(概要)」(2023年12月26日公表)より作成。

2024年度予測値は総じて前回見通しからあまり変わらず
円安による輸出押上げ/輸入下押し効果は下期に希薄化

2024年度予測値については、輸出は前回見通しから上方修正、輸入は下方修正していますが、修正幅はいずれも0-1ポイント台と小幅な修正にとどまっています。
円安による輸出押上げ効果/輸入下押し効果は、下期は上期よりも希薄化するとみていることから、輸出は上期の伸び率が下期よりも高く、輸入は逆に下期の伸び率が上期を上回る見通しとしています。海運輸出については、前年度下期の伸び率が上振れ・大幅増となったことも、下期のプラス幅の抑制・下押しにつながるとみています。

図表1-2:前回見通しからの修正幅/修正方向(2024年度)
図表1-2:前回見通しからの修正幅/修正方向(2024年度)
注)▲:下方修正  無印:上方修正  pt:ポイント
出所)図1-1と同じ

対コロナ前(2019年度)水準は総じて上昇
海運輸出は初めてコロナ前水準近くに回復

輸出貨物量の水準については、海運は2024年度まで6年連続で500万トンを下回り、航空は2年連続で100万トンに届かない(2012~2013年度以来)との見通しを維持しています(前回見通しと変わらず)。
対コロナ前(2019年度)増減率は、海運・航空、輸出・輸入ともに2023年度から上昇する見通しです。とくに海運輸出については、2年連続の増加と2023年度の上振れ・大幅増により、コロナ禍後5年目で初めてコロナ前(2019年度)水準近くに回復するとみています(99.8%)。


図表2―1:日本発輸出貨物の対前年伸び率・貨物量の推移(2003~2024年度)
①外貿コンテナ
図表2―1:日本発輸出貨物の対前年伸び率・貨物量の推移(2003~2024年度)①外貿コンテナ

②国際航空
図表2―1:日本発輸出貨物の対前年伸び率・貨物量の推移(2003~2024年度)②国際航空
注1)2022年度まで実績値、2023・2024年度は今回見通しの予測値。
注2)外貿コンテナ(海運)については、主要8港(東京港、横浜港、清水港、名古屋港、四日市港、大阪港、神戸港、博多港)港湾管理者統計による輸出入コンテナ貨物量の合計値(実入りTEUベース)から算出。
注3)国際航空(航空)については、主要4空港(成田、羽田、関空、中部)の税関速報値による輸出入貨物量の合計値(トン数ベース、仮陸揚貨物除く)から算出。
出所)外貿コンテナ:各港港湾管理者統計 国際航空:各空港税関統計 

図表2-2:日本発着国際貨物輸送量の対コロナ前(2019年度)増減率の推移
図表2-2:日本発着国際貨物輸送量の対コロナ前(2019年度)増減率の推移
注)図表2-1と同じ

中国・アジア向け輸出では中国旧正月・春節時期ずれの影響を考慮
2024年は「1月反動増・2月反動減」のパターンに

中国・アジア向け輸出の1-3月期の荷動き予測においては、中国旧正月(春節)の時期ずれの影響を考慮する必要があります。中国旧正月(春節)の日や春節休暇期間は旧暦(太陰太陽暦)に基づいて決められ、毎年変わります。注)2023年は1月21日~1月27日、2024年は2月10日~2月17日で完全な「月ズレ」となっていました。休暇期間中は中国・アジアの工場が稼働を停止、生産・出荷や部品・部材の調達・入荷もストップします。
輸出貿易数量指数(財務省貿易統計)や輸出航空貨物取扱実績(JAFA)から中国・アジア向け輸出の月別荷動きの動向をみると、2024年1月は稼働日が前年から増加したことによる反動増、逆に2月は稼働日が減少したことによる反動減がみられます。春節休暇時期のズレの影響をならすため、1月・2月合計値で対前年増減率をみると、中国向けは2024年にプラスに転じていますが、アジア向けはマイナスを脱し切れていません。中国向けについても、前年1-2月が2~3割台の大幅減だったことを踏まえると、コロナ禍からの回復の勢いはそれほど強いとは言えません。
注)旧暦は新月から次の新月までの期間を1カ月とし(約29.5日)、1年は約354日となります。太陽暦・季節とのズレが生じるため、2~3年に1度「うるう月」を導入し、1年を13カ月としてズレを調整します。


図表3-1 近年における中国旧正月・春節休暇期間と1月・2月荷動きへの影響
図表3-1 近年における中国旧正月・春節休暇期間と1月・2月荷動きへの影響
注)青字表記:前年よりも稼働日が増加したことによる反動増
赤字表記:前年よりも稼働日が減少したことによる反動減
黄色マーキング部分:新型コロナウイルス感染拡大・まん延期間(コロナ禍期間)


図表3-2 アジア・中国向け輸出数量指数および航空貨物輸出量の1~3月期荷動き
図表3-2 アジア・中国向け輸出数量指数および航空貨物輸出量の1~3月期荷動き
注)対前年増減率(対前年同月比)
JAFA(Japan Aircargo Forwarders Association):一般社団法人 航空貨物運送協会
出所)財務省貿易統計およびJAFA輸出航空貨物取扱実績より作成。

パナマ運河の水位は改善・回復、通航制限が徐々に緩和
北米航路・北米線では海運混乱や航空シフトはみられず

2024年1~3月期から、パナマ運河の水位は徐々に回復し、通航制限が緩和されています。1日あたりの通航枠・隻数は1月以降段階的に拡大されており、通航を再開・拡充する船社もみられます。注)
航空による緊急輸送・航空シフトの動きはみられず、このまま5月後半からの雨季に水位の回復が進めば、7-9月期中にも通航制限の解除・通航正常化が見込まれます。
注1)パナマックス型コンテナ船の通航枠は、3月より1日あたり17隻から20隻に増加。
注2)日本(横浜港)寄港の米東岸直行航路・サービスは、3月から寄港頻度が隔週から毎週に拡充・増便。パナマ地峡の鉄道による接続・代替輸送サービスは終了。


図表4:パナマ運河経由ルート/紅海・スエズ運河経由ルートの通航制限・回復状況
アジア~欧米航路・欧米線における海運混乱・航空シフトの発生動向・見通し
図表4:パナマ運河経由ルート/紅海・スエズ運河経由ルートの通航制限・回復状況 アジア~欧米航路・欧米線における海運混乱・航空シフトの発生動向・見通し
注1)1日あたりの通航枠は、2023年12月は22隻に制限も、2024年1月は24隻、3月は27隻に拡大。さらに5月16日からは31隻、6月1日からは32隻へと段階的に拡大予定。
注2)6月15日以降、ネオパナマックス閘門の喫水制限は現在の13.41mから13.71mに緩和予定。
出所)各種報道・記事よりNX総合研究所作成。

欧州航路では喜望峰経由の迂回ルートの運航・利用が拡大
欧州線では航空による緊急輸送・航空シフトが発生も限定的

2024年1-3月期においても紅海・スエズ運河情勢は収束せず、商船・貨物船に対する攻撃が継続・激化。これを受けて、アジア~欧州航路では紅海・スエズ運河の通航停止が拡大し、喜望峰経由の迂回ルートの運航・利用が進みました。
航空による緊急輸送・航空シフトの動きも一部みられましたが、2021年から2022年前半にかけてみられたような、航空貨物輸送需要・荷動きの急拡大にはつながっていません。
喜望峰経由の迂回ルートでは航行距離が長くなり、運航日数やコスト・運賃も増加しますが、これまでのところ荷主企業にとっては「許容範囲内」で、航空による緊急輸送を行うほどではないものとみられます。

自動車関連は悲観シナリオ寄りに修正:増勢鈍化・減速も
半導体関連は楽観シナリオ寄りに修正:回復加速・前倒し

自動車関連(自動車部品)の荷動きは、2024年1-3月期も増勢を維持・拡大していますが、EV市場の競争が激化し、中国・米国等主要市場の減速感が強まる中で、下期は増勢が鈍化する可能性があります。日系自動車メーカーのEVシフト対応・進出遅れも勘案して、自動車関連については、前回見通しから悲観シナリオ寄りに修正しています。
一方、半導体関連(半導体等電子部品および半導体製造装置)については、半導体市況・需給の回復が想定よりも早く進んでいます。半導体製造装置も2023年末にかけてマイナス幅が縮小・改善し、2024年1-3月期にプラス転換しています。今後は生成AI関連の需要拡大も見込まれることから、半導体関連については、前回見通しから楽観シナリオ寄りに修正しています。

図表5:自動車関連貨物と半導体関連貨物の見通し修正と上振れ・下振れ要因
図表5:自動車関連貨物と半導体関連貨物の見通し修正と上振れ・下振れ要因
注1)HV:Hybrid Vehicle ハイブリッド車 エンジンとモーターの2種類の動力で走行 
PHV:Plug-in Hybrid Vehicle プラグインハイブリッド車:外部電源からの充電が可能
注2)台湾TSMC熊本第2工場は2024年内に建設着手、2027年内に稼働予定。
出所)各種報道・記事よりNX総合研究所作成。

次回見通し(改訂)では引き続き欧米航路・欧米線の動向がポイントに
次回見通し(改訂)は2024年7月に公表予定

北米航路・北米線では、米国東岸港湾労使交渉の難航・長期化により、海運混乱・港湾混雑や航空シフト・特需が発生する可能性があります。現行労使協約の期限は2024年9月末で今後労使交渉が本格化しますが、期限直前の7-9月期にストライキが実施される可能性も否定できません(労働組合側は10月以降のストライキ実施を示唆)。
欧州航路・欧州線では、紅海・スエズ運河情勢が収束、通航が再開・正常化するかどうかがポイントとなります。イスラム武装勢力の攻撃対象がインド洋・アフリカ航路通航船舶に拡大し、喜望峰経由の迂回ルートの安全性が低下すると、保険料も含めた海上運賃の高騰につながります。喜望峰経由の迂回ルートの減便・運航停止や航空運賃との運賃格差の縮小により、航空シフト・航空代替輸送の動きが広がる可能性があります。
次回見通し(改訂)では、上記の欧米航路・欧米線における動向のほか、自動車関連や半導体関連のその後の荷動き、中国・アジアのコロナ禍からの回復状況をふまえて、2024年度予測値の見直しを行います。次回見通しは7月の公表を予定しており、2023年度については2024年3月分までの統計がほぼ出揃うことから、実績値(見込み値)として公表します。

(この記事は2024年4月26日の状況をもとに書かれました。)

この記事の著者

◆出身地:神奈川県横浜市 ◆血液型:B型 ◆趣味:ピアノ演奏・カラオケ・鉄道旅行と写真撮影
1991年 慶應義塾大学 法学部 法律学科 卒業
1993年 慶応義塾大学 法学部 大学院民事法学科 修士課程修了
【得意分野】 ・海外物流事情、国際物流、国際航空/海上輸送に関する調査

通勤経路は JR 根岸線関内駅~新橋駅で、日本初の鉄道開通区間とほぼ同じ。横浜港は自宅から徒歩圏内にあり、近くには赤レンガ倉庫や汽車道、日本郵船歴史博物館、横浜市開港記念館、横浜みなと博物館、横浜税関資料展示室など、国際物流関連の施設も多数あります。
2011 年 4 月より5年間、神奈川大学で非常勤講師として国際物流の講義を担当しました。ほとんどの受講生は国際物流を初めて学ぶことになるため、国際物流を身近にイメージできるよう、横浜港やこれらの施設を訪れるよう勧めていました。横浜港付近はドラマのロケ地としてよく使われているので、その撮影現場がみられるかもしれません。
興味とお時間のある方、ぜひ横浜港までお越し下さい。

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