航空・海運ともにプラスの見通し維持も明暗分かれる
当社では2021年3月末に「経済と貨物輸送の見通し」の改訂版を公表しました。
日本発輸出貨物の2021年度予測伸び率は、国際航空(以下、「航空」と表記)が16.5%増で、前回見通し(2020年12月末公表)の12.8%増から3.7ポイント上方修正。貨物量は新型コロナウイルス感染拡大前(2019年度)の水準を上回り、10%超増加する見通しです。
外貿コンテナ(以下、「海運」と表記)については5.2%増で、前回見通しの6.5%増から1.3ポイント下方修正。貨物量はコロナ前(2019年度)の水準に届かず、95%未満の回復にとどまる見通しです。
このように航空・海運ともにプラスの見通しを維持したものの、増加幅やコロナ前からの回復度には大きな差がつき、明暗が分かれる予測となりました。
※詳細は当社HP以下のURLご参照。https://www.nx-soken.co.jp/report
図表1:日本発輸出貨物の予測伸び率の変化(対2020・2019年度)
注)㈱日通総合研究所「2021年度の経済と貨物輸送の見通し」の国際貨物輸送予測値より作成。
出所)㈱日通総合研究所「2021年度の経済と貨物輸送の見通し(改訂)」(2021年3月30日公表)
2020年10~12月期:航空はコロナ前水準に回復、海運はマイナス抜け出せず
今回の見通しにおいて航空と海運の明暗が分かれたのは、2020年度下期におけるコロナ禍からの荷動きの回復度の違いを勘案したことによるものです。
2020年10月~12月期の荷動きをみると、航空は10月に前年度(コロナ前)水準並み・プラスに回復。12月は2桁台の増加となり、回復基調が鮮明となっています。12月は主力のアジア線が10%台後半の増加、太平洋線・欧州線も約2年ぶりの増加となり、全路線がプラスに転換しました。
一方、海運については7~9月期からはマイナス幅が改善・縮小し、10月は一時プラスに転換したものの、11月・12月は2か月連続で5%台の減少となり、マイナスを脱しきれませんでした。
コロナが早期に収束、欧米に比べて影響が軽微であった中国・アジア向けはプラス基調となったものの、欧米向けがコロナ感染再拡大や後述の船腹スペース・コンテナ不足の影響により、伸び悩んだものと思われます。
図表2:日本発輸出貨物量の対前年伸び率の推移:2020年7月~12月
注1)前年同月比の増減率、赤字表記はマイナス
注2)国際航空:(一社)航空貨物運送協会(JAFA)の輸出混載貨物量統計(トンベース)
注3)外貿コンテナ:各港湾管理者コンテナ貨物量統計(実入りTEUベース)
出所)(一社)航空貨物運送協会(JAFA)および各港湾管理者統計
2021年1~3月期:航空の伸びが一段と拡大、海運からのシフトも押上げ要因に
2021年1~3月期は、航空と海運の荷動き格差がさらに拡大したものとみられます。
航空は1月以降伸び率がさらに拡大し、増加基調が鮮明になっています。とくに太平洋線の伸びが突出しており、2月は7割増、3月は2.2倍増と増勢が一段と強まっています。
海運については1~3月の統計・実績が出揃っていませんが、それに代わるものとして財務省貿易統計から貿易数量指数の動向をみると、1月は前年との中華圏旧正月(春節)休みの時期ずれ注1)・稼働日数増による反動増もあってプラスとなったものの、2月は再びマイナスに沈んでいます。
地域別にみると、アジア向けは前年のコロナ禍からの反動増によりプラス基調を維持し、1月・3月の伸びが2割前後と突出しています。これに対して欧州向けは3月までマイナスが続き、米国向けも2月にマイナス幅が2桁台に拡大しました。
貿易数量指数は航空・海運の合計であり、上記のように航空が大幅増となっていることを踏まえると、海運の1~3月期は小幅増か前年度並みにとどまる可能性もあります。
また、米国向けを中心に、海運から航空へのシフトが進んだことが伺えます。自動車部品のほか、通常は海上輸送される大型・重量貨物も含めて幅広い品目が航空により代替輸送されたことが、航空輸送量の急増につながったと考えられます。
注1)中華圏旧正月(春節)休みの時期は年によって異なり、2020年は1月24日~1月30日、2021年は2月12日~2月20日。
図表3:日本発輸出貨物量の方面・路線別対前年伸び率の推移:2021年1月~3月
注1)前年同月比の増減率、赤字表記はマイナス。
注2)貿易数量指数:財務省貿易統計(2015年=100)
注3)国際航空:(一社)航空貨物運送協会(JAFA)の輸出混載貨物取扱実績(トンベース)
出所)財務省貿易統計および(一社)航空貨物運送協会(JAFA)
海運の前提シナリオは前回見通しよりも悲観的・弱気に
前回見通しでは、2021年度上期にかけて海上コンテナ航路・航空旅客便の復便が本格化し、海運については船腹スペース・空コンテナ供給不足の緩和・解消、航空については旅客便ベリースペースの回復が進むことを前提としていました。
海運については定期航路の復便が進み、臨時便まで運航されるようになったものの、需要の急増に供給がまったく追い付いていないのが実態です。船腹スペース・空コンテナ供給不足は長期化・深刻化しており、緩和・解消の見通しが立っていません。
さらに、コロナ感染再拡大のなかで、北米西岸コンテナ港湾における港湾混雑・滞船が深刻化、マニラ港等アジア港湾における船員交代にも支障を来たしており、世界の海上コンテナ輸送全体でスケジュール遅延や目詰まりが発生・継続しています。
こうしたことから今回の見通し改訂版では、海運については船腹スペース・コンテナ不足の緩和・解消、港湾混雑・滞船やスケジュール遅延の正常化には上期いっぱいかかることを前提としています。
航空の前提シナリオは前回見通しよりも楽観的・強気に
航空については、国際定期旅客便は現在も8~9割の減便が続き、復便が遅れていますが、貨物チャーター便や旅客機貨物便注2)などの貨物専用便が多数運航され、旅客便ベリースペースの消失をカバーしています。
さらに船腹スペース・空コンテナを確保できない荷主が、代替輸送手段として航空輸送を選択したものとみられ、海運からの代替・シフト需要も取り込んだことが、航空輸送量の大幅増につながりました。
こうしたことから今回の見通し改訂版では、航空については今年度も引き続き貨物チャーター便や旅客機貨物便などの貨物専用便が多数運航され、旅客便ベリー輸送の代替輸送手段として利用が定着・拡大することを前提としています。航空による代替輸送・航空シフト需要については、2月・3月がピークで4月以降は徐々に落ち着いてくるものの、上期中は継続するものとみています。
このように、海運と航空ではコロナ禍からの輸送需要回復に対する輸送供給不足の緩和・解消度に大きな違いがみられるため、今回見通しの前提シナリオについても、海運は悲観的・弱気な見方、航空は楽観的・強気な見方に変更しました。
注2)旅客機に乗客なしで貨物のみを搭載し、貨物専用便として運航する形態。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、定期旅客便が大幅減便・運航停止となったため、旅客機ベリー輸送の代替策として実施されました。
自動車向け半導体不足の影響も航空と海運で明暗分かれる
AI・IoT・5Gや自動車の電装化・EVシフトの進展に伴い、半導体に対する需要が急増するなかで、自動車向けの半導体(車載半導体)の生産・供給不足が現在大きな問題となっています。この車載半導体不足の影響についても、航空と海運では明暗が分かれると考えられます。
車載半導体不足に伴い、海外自動車工場の生産調整・減産が拡大すると、自動車部品全般の荷動きが鈍化・失速し、自動車部品を主要輸送品目としている海運にとっては荷動きの大きな下押し要因となります。
一方、半導体関連貨物をメインカーゴとする航空輸送にとっては、半導体関連全体の輸送需要が高まっているため、それほど大きな下押し要因にはならないと思われます。
需要に対して供給が追い付かない状況は、航空輸送にとってはむしろプラス要因となる可能性もあります。2018年に欧州向け自動車部品輸送において日本からの特定部品の供給が欧州側の需要増に追い付かなくなった際、納期に間に合わせるために緊急航空輸送されています。このときの航空シフトは1年近くにわたって継続しました。
次回見通しの公表予定とポイントは
次回見通しについては、今後公表される輸送統計や市場環境の変化を踏まえて、6月から改訂作業を行い、7月前半に公表の予定です。
海運については、上期中に船腹スペース・コンテナ不足の緩和・解消が進み、スケジュール遅延や港湾混雑・滞船も含め、下期からの冬季スケジュールで正常化が見込めるか。
航空については、上期中に旅客便の復便が進み、下期からの冬季スケジュールで旅客便ベリースペースの回復が見込めるかが、見直しにあたってのポイントになります。
(この記事は2021年4月23日の状況をもとに書かれました。)