地域経済共同体(REC)
アフリカでは歴史的な背景もあり、他地域と比較して地域内貿易の促進・円滑化の動きが非常に活発です。例えば「南部アフリカ関税同盟」は1910年に南アフリカを中心に5ヵ国で結成された世界最古の関税同盟であることは有名です。現在は「地域経済共同体」という形態で、地域ごとに域内貿易の物品輸出入の自由化やサービス貿易の促進を目指しています。アフリカの主な地域経済共同体(Regional Economic Communities: REC)は図3の通りですが、南部アフリカ以外は複数の共同体に属する国も多くなっています。いくつもの国をまたぐ輸送が多いアフリカ大陸では、どの関税がどの条件が揃った時に、どこで徴収されるのかについての取り決めが重要となりますが、RECでの統一ルールに従って貿易が行われ、貨物の輸送が円滑化されることは、アフリカ内を比較的自由にモノ・人・サービスの行き来が可能となることを意味し、一国だけでなく大陸全体に利益をもたらします。
図 3 アフリカにおける地域経済共同体とその加盟国
出典:United Nations Economic Commissions for Africa
RECが誕生した理由として、アフリカ諸国の経済規模、内陸国であることに起因する課題が背景にあります。アフリカは、南アフリカ、ナイジェリア、アンゴラ、ボツワナといった少数の経済規模が大きな国以外は、国内市場・経済規模ともに小さな小国で成り立っています。そのため、食品・物資の輸入において経済規模のメリットを享受できず、アフリカの物価は高い物流コストが反映され、日本人が想像する「途上国」の物価よりもはるかに高いのが実情です。経済共同体の仕組みを活用した域内貿易であれば、関税の免除や効率の良い輸送によって、貿易に係るコストを低減できます。また、アフリカ大陸には多くの内陸国があり、近隣諸国の港湾を利用しなければ、内陸国への輸出入は成り立たちません。そのため、近隣諸国との保税輸送円滑化は、物資の安定供給の確保のために非常に重要なのです。
各共同体の加盟国間では、関税の撤廃や貿易円滑化のルール設定がなされており、地域内貿易の活発化に寄与しています。その成果としてアフリカ国家間の輸出は増加傾向ではあります。しかしながら、その合計額は2016年輸出額合計の18%を占めるにとどまっており、アジア間、欧州国間の輸出額がそれぞれ全輸出額の59%、69%であることを鑑みると、アフリカ国家間の貿易にはまだ課題があることを示唆しています (Brookings, 2018)。RECの施策実施に係る課題以上に、アフリカ大陸からは資源輸出が主であることや、工業製品を大陸で生産していないといった、アフリカ特有の産業構造が影響しているものと考えられます。
かつてはREC内で加盟国間のルールを取り決めていましたが、複数の共同体に加盟している国も多いことから、共同体間の協力による自由貿易圏の設立も始まっています(例:2015年COMESA/EAC/SADCによるTripartite Agreement)。さらには、アフリカ大陸全体での域内貿易協力の方向に向かっており、2018年2月には「African Continental Free Trade Area」を設立するための包括協定(Continental Free Trade Agreement: CFTA)にサブ・サハラアフリカの44カ国がサインしました。CFTAの実施によってアフリカ国家間貿易の関税が低減されれば、アフリカ域内の貿易が今後さらに増加する可能性が高いでしょう。これらのアフリカの「大陸レベル」の地域統合の動きと政策アクションの実施は、ビジネスを行う上で事業環境と貿易コストに大きく影響する話であり、注意深く見守る必要があります。
コールドチェーン
コールドチェーンは、アジアの新興国でも課題となっていますが、アフリカでも大きな注目を集めています。コールドチェーンは、①医薬品の輸送、②食料品や生花などの輸入および国内流通、③食料品や生花などの海外への輸出、の3点において、いずれも重要性が増しています。
医薬品を僻地の保健所に届けるには、冷蔵大型トラックで大きな町まで陸送するものの、その先は保冷剤の入っていないクーラーボックスで舗装されていない道を普通車で1日かけて届ける、といった光景を、実際に筆者は現地で目にしました。温度管理の必要なワクチン運搬には不適切な輸送状況で、ユニセフなどを中心に保冷輸送や要冷在庫管理への取り組みがなされています。
一方、ビジネスベースで冷凍・冷蔵食品も多く輸入されていますが、要冷蔵・冷凍品のシームレスな(途切れない)輸送にはまだ課題が残っています。各国の首都には港を中心にそのような設備が整備されてはいるものの、完全なコールドチェーンが張り巡らされているとは言えません。そもそも電源網に接続していない地域も多数あり、どこから冷凍・冷蔵のための電源を取るかという問題です。それゆえ、コールドチェーンが切れてしまうことが多々あり、一度完全に溶けたアイスクリームや冷凍食品がいびつに再凍結してスーパーに並ぶ光景も散見されます。
アフリカ国内ではまだまだ課題が残る中、最も整備が進んでいるのは、③の輸出品向けのコールドチェーンです。ケニアの花ビジネスように、生産者からアムステルダムの国際花市場に並ぶまでのコールドチェーンを、オランダ政府、民間事業者、アカデミアの産学官連携のもと確立し、アフリカ花ビジネスの成功に貢献している事例があります。輸出には輸入国(この場合オランダ)の規制をクリアする必要性があることから、低温輸送による質の確保が必須であったためと考えられます。交通インフラ整備が政府主導である一方、コールドチェーンはこの例のように民間ビジネスに対応する形で発展していくことが可能で、アフリカ諸国でのコールドチェーン確立には民間事業者の役割が期待されます。
まとめ
国をまたぐ輸送がごく普通であるアフリカ地域では、輸送の円滑化がビジネスチャンスを大きく左右します。アフリカ内の輸送は、ハード面とソフト面の施策実施により、着実に利便性を高め向上してきています。一部不十分なインフラ、地域経済共同体(REC)で合意された施策実行の不確実性など課題は残るものの、現状の交通貿易物流面での整備・進展は今後の民間企業進出を確実に後押しするものであると考えます。日本企業によるアフリカビジネス展開においては、アジア以上に盛んな地域統合の動きをよく捉え、一国でのビジネスではなく「RECを利用した地域単位でのビジネス」を考慮することが不可欠です。今後もアフリカ域内貿易ビジネスで活躍される日本企業が増えることを期待しております。