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アフリカスタートアップ企業の隆興と物流の未来(後編)

アフリカスタートアップ企業の隆興と物流の未来(後編)

前編[アフリカスタートアップ企業の隆興と物流の未来(前編)]では輸配送サービスを提供するスタートアップ企業を紹介しました。物流には輸送以外に保管、荷役、流通加工、国際物流ではフォワーディングもありますが、これらの領域でのスタートアップ企業の活動はどうでしょうか。欧米や日本の物流ベンチャー、スタートアップ企業と比較しながら紹介します。

国内物流に関連する輸配送ビジネス以外のスタートアップ企業

現在のところ輸配送以外の領域ではアフリカスタートアップ企業の活動は限定的なようです。アメリカや日本の物流ベンチャー、スタートアップ企業の動向とデスクトップベースの情報で比較してみました(下表)。

国内物流に関連する輸配送ビジネス以外のスタートアップ企業

出所:各社HP、日通総研作成

まず、保管、荷役、流通加工サービスはいずれも倉庫や物流拠点といったハードインフラがあってのBtoB向けサービスです。現在アフリカでは、大手物流事業者がwarehousingサービスを拡充している段階です。例えばAgilityは、保管倉庫のみならず軽工業施設としてロジスティクスパークの開設を急速に進めています。倉庫や複合ロジスティクス施設の整備は既存の物流事業者が既に提供している、また拡充していますが、物量が増え物流施設のニーズが高まれば庫内作業も効率化しようという流れになるでしょう。これから整備されるアフリカの物流拠点では、ここ数年世界中で開発された最新技術を最初から導入でき、欧米以上にデジタル化された設備が完備される可能性が高くなります。また、新たなマテハン機器や庫内作業ロボットを扱うアフリカのスタートアップが出現してくるかもしれません。また、現在輸配送のマーケットプレイス、ラストマイル輸送に携わっている企業も、倉庫を活用した物流サービス領域に進出すると考えられます。実際、ナイジェリアのKobo360はリバースロジスティクス事業展開のため拠点を増やし、倉庫も構え始めています。加えて、ケニアのTwigaのように農作物生産者と購入者を繋げるプラットフォームを運営する企業が、collection centerに集約、輸配送迄を行う例も既に出てきています。同様の食品流通系スタートアップには流通と物流を一気通貫で扱う例が多く見られ、作物を集める倉庫を運営しています。

国際物流に関連するスタートアップ企業

国内物流のみならず国際貿易をサポートするビジネスがアフリカでも生まれています。輸出入のサポートと言えばフォワーダーや乙仲の関与が通常ですが、複数のフォワーダーからの見積りを容易に比較・選ぶためのプラットフォーム(マーケットプレイス)が登場しました。中小企業 (SME) や小規模生産者の輸出入支援に一役買っているコートジボワールのJexportは、小規模生産者である農業のSMEを中心とした荷主、フォワーダー、キャリアを結ぶプラットフォームで、SMEの国際市場へのアクセスを促進するために始まりました。輸送に関わる仲介者を省いてコストを抑えられるためアフリカのSME企業を支援する便利なサービスです。

さらに、空きスペースのマッチングを提供するスタートアップ企業もあります。ガーナのSwiftlyは航空、海上、陸上輸送のいずれにも対応しており、世界中のフォワーダーから見積もりを得るためのプラットフォームに加え、空きスペースに複数の荷主をはめ込みスペースマッチングを行い、フォワーダーの混載業務に近いサービスを自ら提供しています。南アフリカのEmpty Tripsも同様のサービスです。

同様のサービスを提供するスタートアップは欧米では既に数多く活動しており、マッチング・マーケットプレイス機能(connecting 機能)に加えtrade financeの提供や輸送保険のアレンジまで提供する企業もあります。このようなサービスは特にSMEにとって利便性が高いサービスとなっています。そして日本よりもはるかに普及したデジタル決済で支払いが完了、サービス提供者への比較的早い入金が可能な仕組みが出来上がっています。また、Amazonが一部区間でフォワーダー業務を行っているように、ECの延長としてフォワーディング業界に参入するケースが出てきています。一方で通常のフォワーダー業務を全て行うデジタルフォワーダーの躍進も欧米では目立ちますが、アフリカのスタートアップ企業ではまだ見られないようです(下表)。

国際物流に関連するスタートアップ企業

出所:各社HP、日通総研作成

このように見てみると、これまでの物流事業者は荷主の商売がまずありそれを支える物流サービスを提供してきた「従」の立場ですが、物流スタートアップ企業は輸配送ビジネスを中心として他のビジネスを繋げ、自身のビジネスも多様化していく「主体」となっているように見え、物流の考え方を変える面白い流れだと思います。また、既存の国際物流事業者の領域に流通・EC等の別事業を核にしたプレーヤーが登場しており、アフリカにはどのような新プレーヤーが今後の物流事業に参入してくるのか今後注目したい領域です。

今後のアフリカ物流と物流スタートアップ企業への期待

2019年5月末に効力を発したアフリカ自由貿易圏 (The African Continental Free Trade Agreement: AfCFTA) は、大国ナイジェリアの合意を得て、7月8日に54ヵ国で運用段階が正式に開始されました。参加国が共通の原産地規則、非関税障壁の監視と撤廃、統一デジタル決済システム利用等に関して合意したことで、同協定の実施が容易だとは思いませんがアフリカ域内貿易の活性化に向けた土台が整いました。前回筆者はアフリカ域内貿易が世界の他地域に比べてかなり少ないことに言及しましたが、今後確実に域内貿易量が増える方向です。貿易促進によりBtoBの物流が増え、その物流を円滑化するニーズが高まります。スタートアップ企業は既存物流事業者よりもデジタル化したサービスをAppsを通じて簡単に誰にでも提供できるため、大企業は勿論、SMEの貿易も促進するきっかけとなっていくかもしれません。今後、既存物流事業者と物流スタートアップ企業の役割がどのように分かれていくのか、皆さんもぜひ注目してみてください。

(この記事は2019年10月の状況をもとに書かれました。)

この記事の著者

◆出身地:埼玉県春日部市 ◆血液型:O 型 ◆趣味:ダンス、ジム
2004 年 東京外国語大学 外国語学部ポルトガル語専攻 卒業
2009 年 Teachers College, Columbia University MA(修士) in International Transcultural Studies 修了
【得意分野】交通貿易物流分野の政策策定、港湾政策、回廊開発

留学や仕事で世界中を8 年程うろうろして、日本に完全帰国して3 年経ちました。海外で外国人と仕事をすることに慣れてしまうと、日本人の働き方の特殊さに驚かされますが、やっと慣れてきました。若いうちにアフリカ等の開発途上国に住んで仕事をした経験は、物流の仕事に関わっていこう決意をするきっかけともなりました。交通インフラ、物流網が整備されてないことで、レタス1個10ドル、トマト6 個15ドルというような異常な国に住むと、物流や貿易コスト高が自分のお財布を直撃するので、身をもって物流の重要性を感じるわけです。また、海外で仕事をしていて日本人だと分かると、10 年程前は「日本はすごい国だよね」と言われることも多々ありましたが、昨今ではあまり言われなくなりました。私自身の経験から、新興国や開発途上国も含む海外から日本が学ぶことが多々あると思っています。そんな海外の経験を「輸入」しながら、クライアントのお役に立ちたいと考えております。

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