投資に伴い企業として、なぜ、デューデリジェンスが必要なのか、皆さまはご存知ですか?また、「物流に直接関係ないのでは?」 と思っていませんか?いかがでしょう?そもそも、「デューデリジェンスとは何ですか?どういう意味ですか?」 という問いもあろうかと思います。まずは、その部分を少し触れてみたいと思います。
デューデリジェンスの意味
サプライチェーンやロジスティクス、物流の世界で、IoTやAI、ロボットなどの先端技術を導入し、業務ツールとして活用する場合、大きな初期投資に加え、保守やメンテナンスに必要なランニング費用が発生します。一方で現在、最初の投資にかかる費用、維持するためにかかる費用に対して、投資する側の企業体力(財務状況)に、きちんと即しているのかを、適正に判断し検証していくことを投資する企業側から求められています。端的に言うと、「企業が投資金額に見合う自社の基礎体力(経営財務状況)について優越の是非を判断するために、適正な診断・評価を行うこと」 がデューデリジェンスになります。
ロジスティクスや物流で必要なデューデリジェンスとは
デューデリジェンスとは、一般的には資産査定のことを意味し、企業が事業再編を行うときなど、投資が発生する場合に「果たして本当に適正な投資なのか」 「投資する価値があるのか」 を見極めるため、事業の投資価値を数値で評価することを指します。業務やITのデューデリジェンスの場合、上記の定量評価に加えて、業務やITにおける機能の定性評価も行います。もっと詳しく言えば、業務とシステムの基盤や統制状況、保守状況、投資状況を把握し評価します。これは、業務とITのアセスメント(診断)にも繋がってきます。それと、業務やITだけではなく、保有資金(資本)の現状もしっかり理解することも必要です。更に、事業再編に伴う投資のみならず、将来のM&Aなど、今後の事業活動を見据えた企業価値を評価することも適宜必要です。
では、ロジスティクスや物流を対象とした場合のデューデリジェンスとはいったい何なのかについて、小生の経験値から簡単に説明します。先ずは、3PL事業推進に伴う委託費の適正判断、次に物流施設や物流機器・機材(マテハン・フォークリフトなど)に投資する費用の検証と分析、それら投資に対する妥当性診断、続いて回収年数に伴う投資対効果(ROI)の計算、最後に事業単位(この場合は、サプライチェーンやロジスティクス部門)でのキャッシュフロー分析が、デューデリジェンス実行目的の要になります。更に、投資の当事者となる企業側の成長戦略、発展計画に従って、投資計画を立案することも重要なファクターです。そして、投資にも戦略的投資と非戦略的投資があります。売上や利益に直接結びつき、企業価値向上に寄与する投資が戦略的投資であり、現状業務を維持するために必要な資本投資を非戦略的投資と定義しています。従来のロジスティクスや物流への投資は、非戦略的投資の割合が多かったように感じます。
デューデリジェンスの障壁
モノを売りたい営業側と、モノの構築・導入に際して生じるリスクの高低を判断し、投資の可否を方向付けるコンサルタント側との間で、意見や思想の違いにより対立するケースが往々にしてあります。また、組織を強化・活性化させるために、部門の統廃合や合併、吸収などの行為が発端で利害が悪化するなど、デューデリジェンスを実施することで、障壁が発生するのも事実です。なぜならば、労働集約型業務の特性上、労働者側にとって組織再編は痛みを伴うからです。設備に対する投資についても同様、自動化・省力化が進めば進むほど、ヒトが削減されることになります。特に現場を担う直接部門(ヒト)にとっては死活問題で、労働者側からの反発も強くなります。そういう意味では、事後ではなく事前に利害関係者との間で合意形成を図り、関係者間で確実に問題を提起しながら、実施方針に対して合議しておく事が必要です。
図2:投資に伴うデューデリジェンスのポイント
ロジスティクス・デューデリジェンスの推進
デューデリジェンスは、テクニカルエンジニアリングの活動領域においては、使う機会は多くありません。しかし、上流のコンサルティングビジネスの領域においては、使う機会は多く、リサーチやコンサルティングを生業とする研究員やコンサルタントにとっては必要なスキルと言えます。(逆に知らない、使えないといった場合、未来開拓型の営業活動に良くない影響を及ぼす可能性があります。)つまり、企業買収(M&A)やビジネスの外部委託化(BPO)、大規模な設備・ITへの投資検討時には、実施しておくべきイベントなのです。
一昔前のロジスティクス改革や物流改善は、現場のフロント実務にフォーカスした部分最適、個別改善でその役割を果たすことができました。しかし今日のロジスティクスや物流は経営視点からの全体最適枠の主要部分となって位置付けされていることが多いため、デューデリジェンスの重要度は刻々と高まっています。今後、オペレーション改善やプロセス再編などのボトムアップ型アプローチだけではなく、デューデリジェンスのようなトップダウン型アプローチモデルを利活用して、企業の盲点や弱点、隠れている問題を大局的且つ、俯瞰的に考察することも必要ではないでしょうか。そこからロジスティクスや物流の潜在的課題を洗い出してみることで、問題の本質を正しく見極めることができ、企業価値創出にも繋がると思います。
IoTやAI、ロボット、マテハン機器など、開発・導入・稼働・維持(保守)が伴う大型投資には、デューデリジェンスの実施は不可欠です。従来、皆さまが常々意識していた、効率化・自動化・省力化といった現場の合理化視点、いわゆる仰視的観点のみに捉われることなく、大きな所から小さな所に落とし込んでいくドリルダウン型思考で解決施策をクローズアップしてみてはどうでしょうか。今を時めく先進的企業は、既にロジスティクス・デューデリジェンスの重要性を理解し、着工しています。弊社も時代のトレンドに先駆け、顧客ニーズに合わせた 『企業の身体測定』 を実行するにあたり、今後、ロジスティクス・デューデリジェンスを推進していこうと考えています。
図3:デューデリジェンスの実施効果