ロジスティクスの核心を担う貨物輸送のほとんどが、多くのCO2を排出する内燃機関を利用しているからでしょうか、日本のロジスティクス関連企業の多くは、SDGsのゴール7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」やゴール13「気候変動に具体的な対策を」に重きを置き過ぎる傾向があるように思われます。
しかし、日本のロジスティクスが乗り越えなければならない物流の「2024年問題」という喫緊の課題に目を向けた時、その他にもっと注目すべき多くのゴールがあることに気付くはずです。
今回からしばらくの間シリーズで、SDGsのゴールとしては見落としがちな、しかし実は日本のロジスティクスの持続可能性にとって極めて重要な、そして物流の「2024年問題」を根幹から解決するのに不可欠なSDGsのゴールに焦点を当てて行くことにしたいと思います。
日本の物流業界における相対的貧困層の潜在化
SDGsの最初のゴールである「貧困をなくそう」の意味することが「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」ことであり、「あらゆる次元の貧困状態にある、全ての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる」ことである点に注目すると、このゴールが物流の「2024年問題」にとっても重要な意味があることが理解できるでしょう。
図表1を見ると、他のほとんどの業種と比較して月間労働時間が長く、時間当り平均賃金が低いのが、ロジスティクスの第一線を担う道路貨物運送業であることが分かります。その観点から、この問題はSDGsのゴール1「貧困をなくそう」のみならず、3「すべての人に健康と福祉を」、8「働きがいも経済成長も」、10「人や国の不平等をなくそう」にも関わる問題として捉える必要があります。
図表 1 産業別月間労働時間及び平均収入
(出所:公益社団法人全日本トラック協会「2021年版トラック輸送データ集」をもとにNX総研が作成)
皆さんよくご存じの通り、物流の「2024年問題」の核心でもあるトラックドライバーの時間外労働の上限規制の強化を踏まえると、荷主の輸送条件やドライバーの労働条件が変わらない限り、2024年4月1日以降2019年度比で、営業用トラックの輸送能力は14%以上不足すると言われており、今よりもっと多くのトラックドライバーが必要となります。
しかし一方では、2030年には30万人近いトラックドライバーが不足すると言われています。実際、コロナ禍前の有効求人倍率は3倍を超えており、コロナ禍による荷動きの減少により一旦2倍を割ったものの、その後じりじりと上がった結果再び2倍を超えています。
このような状況下では、男女の別なく質の高い労働力を確保しなければならないのですが、図表2を見ると、ドライバーはもちろんのことトラック運送事業のどの職種においても、女性の割合が圧倒的に低く、SDGsのゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」に関わる問題が深刻であることが分かります。
図表 2 トラック運送事業職種別ジェンダー別人員
(出所:公益社団法人全日本トラック協会「2021年版トラック輸送データ集」をもとにNX総研が作成)
また、図表3は、トラック運送事業のどの職種でも、女性の賃金が男性の賃金よりもはるかに低いことを示しており、シングルマザーが家計を担う母子家庭も少なくないことを考えると、日本の物流業界において相対的貧困層が潜在的に増加している可能性も危惧され、これもSDGsのゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」に関わる問題として捉える必要があることが分かるでしょう。
図表 3 トラック運送事業者職種別ジェンダー別平均賃金
(出所:公益社団法人全日本トラック協会「2021年版トラック輸送データ集」をもとにNX総研が作成)
何故、日本の物流業界は、このような状況に陥ったのでしょうか。
なかなか改善されない貨物運送事業者の経営状況
図表4を見ると、保有車両規模101台以上の大規模事業者でさえ、営業利益は1%未満から1%台半ば、経常利益も1%台前半から後半であり、規模が小さくなればなるほど経営状況が厳しくなっていることが分かります。この問題は、SDGsのゴール8「働きがいも経済成長も」、更に日本のトラック運送業界の多重構造を踏まえると10「人や国の不平等をなくそう」、17「パートナーシップで目標を達成しよう」に関わる問題であり、日本の貨物運送業界では、高い賃金を払って人材を集めることが非常に難しいことを意味しているのです。
図表 4 トラック運送事業者規模別経営状況
(出所:公益社団法人全日本トラック協会「令和3年度経営分析報告書」から抜粋)
つまり、日本のトラック運送事業は、全く良いビジネスではないということなのです。
次回は、何故に日本のトラック運送事業がこんなビジネスになってしまったのか、日本のトラック運送事業は何を乗り越えねばならないのか、SDGsの視点から掘り下げて行きたいと思います。
(この記事は2023年8月21日の状況をもとに書かれました。)