【Logistics Report】トラック運賃を巡る2つの指数
昨今、少子高齢化に伴う労働力全般の不足に加え、長時間運転などの労働環境の問題から、トラックドライバーのなり手が不足してきていることがニュースでもよく取り上げられています。このままではトラック輸送力の逼迫につながりかねず、ドライバーを確保するためには、福利厚生の整備や賃上げなどの待遇改善が早期に求められています。
このような環境下において、トラック輸送のコスト上昇が避けられず、トラック運賃上昇は免れない状況となっています。
では、実際にトラック運賃はどれだけ上がっているのでしょうか。既に値上げに応じているという企業もあれば、まだ、具体的に値上げ対応はしていないという企業もあり、その答えは荷主企業によってまちまちだと思いますが、ここでは2つの指数の動きから、トラック運賃の全般的な動向をみていくこととします。
図:2つの指数の推移
1つ目の指標は、日本銀行が発表している「企業向けサービス価格指数」で、これは日銀が作成・公表している物価関連統計の一つです。もともとインフレやデフレを観測するため、商品の取引価格から物価動向をみていましたが、経済のサービス化が進む中でそれだけでは全体を把握できなくなったため、企業間のサービス料金も1991年から観測対象とするようになりました。
この「企業向けサービス価格指数」の中に、トラックの運賃料金を対象とした「道路貨物輸送」の項目があります。この道路貨物輸送のサービス価格指数は2010年平均を100とした指数で、グラフの青線はその推移を示したものです。
長期的にみると、2014年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられた時を除いて、大幅な変動は見られませんが、少しずつ上昇はしていました。その上昇時期は3月から4月にかけての年度替りの時期が多くなっており、定期的な契約更新時に上昇していると思われます。
つまり、この指数から見るトラック運賃の動向は、荷主企業者と元請運送事業者等との長期運送契約の運賃の動向を示しているとみられます。この指数の動きをみる限り、長期運送契約の運賃はこれまでのところ急上昇はしていません。
2つ目の指数は、公益社団法人全日本トラック協会と日本貨物運送協同組合連合会(日貨協連)が2010年から公表している「WebKIT成約運賃指数」です(グラフの赤線)。WebKITとは、日貨協連が運営するインターネットを利用したトラック運送事業者間の求荷求車システムで、輸送を依頼したい貨物と輸送する貨物を探している車両とをマッチングさせるシステムです。成約運賃指数とは、成約した運賃の合計を成約件数で除したもので、2010年4月時点の数値を100として指数化したものです。1件あたりの取扱規模の変動も影響しますが、大雑把にいえば、トラック調達のスポット価格の動向を示したものです。
この指数の推移を見ると、季節波動による月毎の変動が大きいものの、2012年頃から上昇傾向となっているのが見て取れます。前述の消費税増税時に、押し込みの輸送需要が増えたためか、126まで急上昇、その後は少し落ち着きを取り戻していますが、2016年現在も110台後半の水準を中心に推移しています。
このように、日銀による長期契約運賃の指数と、トラック調達のスポット価格の指数との間に乖離が見られます。この乖離を埋める策として、実運送事業者は「積載率向上」「事業者間連携」、元請事業者や3PLは「往復実車促進」「保管等の他業務との総合的受託」「荷主の物流システム改善」などに取り組みつつ、自社の利益率・取り分を切り詰めることで、トラック運賃の上昇が即荷主に転嫁されるのを緩和してきました。
今後、2つの指数の乖離が継続・拡大するのであれば、いずれグラフ青線のサービス価格指数が上昇、すなわちコスト上昇という形で荷主への運賃転嫁が顕在化すると思われます。今後のトラック運賃の動向を占う上で、両指数の動向を注視して行く必要があります。
http://www.jta.or.jp/rodotaisaku/kyogikai/pdf/Shipper%20recommendation%20system%20Leaflet.pdf