物流分野へのAIの応用は大きな成果を生み出しつつあります。たとえば、拠点内物流については、AmazonがAIとロボット技術を組み合わせて全倉庫におけるコストの20%削減に成功しています。他にも調達物流や販売物流において国内外の企業がさまざまな取り組みを進めています。
さて、AIが利用価値の高い新技術であることは何となく理解できるが、正直なところ、どのような仕組みになっているのかさっぱり分からないというご感想を耳にします。スゴイという話は聞いているが、何がどうスゴイのかはよく分からないというわけです。そこで、この「物流担当者のAI常識」シリーズでは、特にAIの技術的な側面にスポットライトを当てながら、なぜAIが革命的な影響力を持ちうるのかという点について解説していきます。
ディープラーニングと人間の脳の構造
今回は、現在主流となっているAIの中核技術であるディープラーニングについてです。ここで、ディープラーニングの「ディープ」とは階層が深いという意味ですが、そもそも「階層」とは何のことでしょうか。
前提として理解しておく必要があるのは「人間の脳の構造」です。人間の脳は約1000億個の神経細胞(ニューロン)がネットワークを構成する構造であり、相互に電気信号をやり取りしながら活動しています。これらの神経細胞はランダムにつながっているのではなく、階層構造をつくりながらつながっていて、電気信号が階層構造を通過する過程で、次々と一定の処理がなされています。
例えば、子供が外界のモノを認識する過程を単純化して考えると、いろいろな形や毛色をしたネコを見るたびに親が「ネコ」という言葉を教えます。こうした経験を何回もくりかえす中で、子供は無意識の中でおよそ「ネコ」と呼べるものの特徴をつかむわけです。
このような認識プロセスにおいて、脳の特定の箇所の神経細胞は多様なネコのイメージから非本質的な要素を除去し、より本質的なネコの特徴だけを抽出するという処理を行います。このような処理を行うために神経細胞の階層構造が必要となるのです。
ニューラルネットワークによってコンピュータは概念獲得が可能となった!
ディープラーニングでは、人間が日常的に行っている認識活動を人工的に電子回路でつくったネットワークで再現しようとします。このような目的を持つ電子回路のネットワークのことをニューラルネットワークといいます。
ニューラルネットワークを使えば、大量の「ネコ」の写真を処理させることで、「ネコ」の特徴をコンピュータが自分で把握することができます。あとは、このようにしてコンピュータが把握した「ネコ」の特徴に対して、人間が「ネコ」という言葉を教えてあげれば、コンピュータは「ネコ」の特徴を持った存在に対して「ネコ」という呼び名があることを理解するわけです。
このような認識方法が可能となったところがディープラーニングのスゴイところです。つまり、人間がコト細かに特徴を指定してやらなくても、大量の情報さえ与えてやれば、自動的に特徴(つまり概念)を自ら形成できるようになったのです。言葉を換えれば、コンピュータが自力で概念学習できるようになったといえます。
ひとたび概念を獲得したコンピュータは、その概念に照らしてあてはまるものを自力で判断することが可能となります。たとえば、トラックの自動運転システムであれば、特定の危険な状況という概念を獲得している自動運転システムは、人間がいちいち教えなくてもその危険な状況を自ら判断して最適な操作を行えるわけです。
まとめ
今回はAIの中核技術であるディープラーニングについて、その基本的な仕組みをご説明いたしました。ニューラルネットワークを使うとコンピュータが自力で概念を獲得し、自律的な活動が可能となるということがご理解いただけたと思います。もちろん、実際の場面で稼働させるためには、まだまだ研究開発が必要なところが多いのですが、物流分野でもすでに多数の企業が実用化して成果を挙げはじめています。物流担当者としても理解を深めておきたいところです。