平成29年7月から、乗務記録へのトラックドライバーの荷待ち時間の記録が義務付けられました。今回は、その荷待ち時間と関連するドライバーの長時間労働などの労働条件の実態やその他に付随する課題、そして改善に必要な対応策について考察します。
荷待ち時間の記録義務付けが開始
国土交通省は、平成29年5月31日に、貨物自動車運送事業輸送安全規則の一部を改正し、平成29年7月から、乗務記録にトラックドライバーの荷待ち時間の記録が義務付けられました。その目的は、トラックドライバーの業務の実態を把握し、長時間労働等の改善を図るためです。これは、近年問題となっているトラックドライバー不足と長時間労働の問題を受けています。荷待ち時間は、トラックドライバーの長時間労働の要因の一つとなっているからです。
今回の改正の概要として、トラックドライバーが車両総重量8トン以上又は最大積載量5トン以上のトラックに乗務した場合、乗務等の記録(第8条関係)として、ドライバー毎に、下記の内容等について記録し、1年間保存しなければなりません。
・集貨又は配達を行った地点
・集貨地点等に到着した日時
・集貨地点等における荷積み又は荷卸しの開始及び終了の日時
これにより、荷待ち等の実態を把握し、そのデータを元にトラック事業者と荷主の協力による改善への取組みを促進するとともに、国としても荷待ち時間を生じさせている荷主に対し勧告等を行うに当たっての判断材料とすることがねらいとなっています。
荷待ち時間の発生要因と問題
そもそも荷待ち時間はなぜ発生するのでしょうか。例えば、
・ドライバーが集荷・配送の際に、発側では、集荷時間に到着したにもかかわらず、荷主側で出荷準備ができていないための待機待ち。
・納品時間に到着したにもかかわらず、卸し時間が他社の車両と重なり発生する順番待ち。
等があげられます。
このような荷主の都合によって、そもそも責任のないドライバーの労働時間が荷待ちによってさらに長時間化し問題となっています。(もちろん、ドライバーは、客先の集荷時間、納品時間に合わせて、はやく到着し発生する手待ち時間もありますので、今回の改正では、荷主都合による荷待ち時間を対象としています。)また、このような荷待ち時間が発生することによって、荷主企業の庭先で待機できればまだよいのですが、敷地外である近くの駐車場などで待機するトラックもあります。卸し先が中心市街地などである場合は、路上駐車なども発生し、別の問題にまで飛び火します。
トラックドライバーの労働条件と実態
トラックドライバーの労働条件は、全産業と比較して低賃金・長時間労働となっており、人手不足の解消に向けて、労働条件の改善が求められています。トラックドライバーの労働時間とその実態はどのようになっているのでしょうか。
賃金調査によれば、トラックドライバーの年間所得額は、全産業の平均490万円と比較して、大型トラック運転者は447万円と約1割低く、中小型トラック運転者は399万円と約2割低くなっています。また、トラックドライバーの労働時間についてみると、年間労働時間は、全産業の平均2,124時間と比較して、大型トラック運転者2,604時間となっており約1.22倍、中小型トラック運転者については2,484時間で約1.16倍です。
このようにトラックドライバーは、全産業に比べて賃金も低く、長時間労働となっていることから、時間あたりの賃金については、全産業の約2300円に対し、大型トラック運転者は1700円、中小型トラック運転者は1600円で、7割程度の賃金となってしまいます。なかでも今回改正でとりあげられた荷主庭先での荷待ち時間・荷役時間は、平成27年の国土交通省の調査※によると、トラックドライバーの1運行の平均拘束時間は13時間27分で、そのうち手待ち時間は1時間45分です。また、1運行あたりの手待ち時間の全体分布は、1時間超が全体の55.1%、さらに2時間超が28.7%を占めています。
貨物自動車運送事業においては、依然として労働基準関係法令及び改善基準告示等の違反が高い割合で生じており、トラック運転者の長時間労働の実態が認められることから、運送事業者等において、関係法令や改善基準告示等に則した運行をするための取組が求められています。
改善基準告示の概要
その他の課題
今回の改正による荷待ち時間の記録義務付けは、ドライバーの長時間労働問題の解決に向けた重要な取組となるでしょう。ただし、今回の改正では、車両総重量8トン以上又は最大積載量5トン以上のトラック、いわば大型トラックを乗務するドライバーについて対象とした乗務記録の義務付けです。現実は、車両総重量8トン以下又は最大積載量5トン以下の中小型トラックについても荷待ち時間等は発生しています。
また、ドライバーの長時間労働の要因は、荷待ち時間だけではありません。運行時間を始め、荷役時間、それに付随する仕分けや検品作業等の附帯作業等も要因となっています。慣習的な商取引から、荷主と運送事業者との間では、このような作業について口頭による取引が多く扱われてきました。
国土交通省では、トラック事業における適正取引の推進及び安全運行の確保に向け荷主と協働の下、運行条件に係る重要事項について書面化を推進しています。運送事業者との取引における運送以外の附帯業務についても、附帯業務内容、平均所要時間作業を明らかにした上で、適正な附帯作業料金、時間単価等を設定し、書面化されることが求められています。
ドライバー労働時間の改善に向けて
運送業界は今後、人手不足がますます深刻化するといわれていますが、ドライバー労働条件の改善は、喫緊の課題となっています。その表れのひとつとして、ニュースでも大きく取り上げられている大手宅配事業者の運賃の値上げの動きがあげられます。近年では、ドライバー不足、通販事業拡大に伴う宅配便の急増等により、物流事業者の負担が増しています。宅配に限らず物流の取引条件の見直しを求められる顧客の話題も出てきています。
運送事業者の自助努力だけでは労働時間の短縮は進みません。運送事業者は、改善に向けてまずはドライバーの労働時間の実態を把握し、荷主企業に対し改善を求める等の取組も必要になると思います。そして、定期的な連絡会を開催するなどし、荷主企業と運送事業者が一体となり、荷待ち時間の削減、荷役作業の効率化等、長時間労働の改善に取組んでいくことが望まれます。
※厚生労働省では、荷主企業と運送事業者の協力によるトラック運転者の労働時間の短縮に向けた取組事例をとりまとめたパンフレットを公表しています。トラック運転者の労働時間の短縮をはじめとする労働条件の改善に向けてご参考ください。
参考:荷主企業と運送事業者の協力によるトラックドライバーの長時間労働の改善に向けた取組事例
http://www.jta.or.jp/rodotaisaku/kyogikai/pdf/Shipper%20recommendation%20system%20Leaflet.pdf