【Logistics Report】イノベーションを推進するための組織改革(後編)
「イノベーションを推進するための組織改革(前編)」では、「日本企業のイノベーション能力が低いのは組織に問題があるから」という話をしました。今回は名著「イノベーションのジレンマ」の関連書籍である「イノベーションのDNA」(注1)を参考にしながら、イノベーションを起こすための組織作りについて考えていきたいと思います。
1.イノベータに必要な5つの力
イノベーションのDNA(以下、本書)は8年もの時間を費やし、500名を超えるイノベータと、5,000人を超える企業幹部の調査データを分析した結果、イノベータに共通する5つのスキルとして、認知的スキルである①「関連づけ思考」、そして4つの行動的スキルである②「質問力」、③「観察力」、④「ネットワーク力」、⑤「実験力」をあげています(図1)。そして、イノベーションを起こす能力は、「けっして先天的なものではなく、後天的に育成できる」と結論づけています。
図1:イノベータDNAモデル
出所:クレイトン・クリステンセン/ジェフリー・ダイアー/ハル・グレガーセン(2012)
イノベーションのDNA-破壊的イノベータの5つのスキル』 翔泳社
前回、「これまでの通説にとらわれず、自由な発想で物事を捉えることができれば、誰でもイノベータになれる可能性があります」とお話しましたが、本書ではイノベータに必要な5つのスキルを詳細に解説するとともに、その力を伸ばすためにはどのようにすれば良いかというヒントが複数紹介されています。ぜひ参照してみてください。
2.イノベーションを起こすための組織作り
さて、そろそろ本題に入りたいと思います。何故、個人のイノベーション能力は高くて、日本企業のイノベーション能力は低いのでしょうか?
本書によると、イノベータたちは一般的な企業幹部と比べて4つの行動的スキルに1.5倍もの時間を費やしているそうです。一方で、一般的な企業幹部は、ビジョンや方針を明確な目標に変えて、実現するために具体的なタスクに落とし込む能力に長けており、①「分析」、②「企画立案」、③「行き届いた導入」、④「規律ある実行」の4つの実行力に秀でていることがわかっています。一般的に、成熟し衰えゆく組織は、この実行力の高い企業幹部に牛耳られていることが多く、企業が破壊的イノベーションに失敗する理由として、本書では「この実行力で選ばれた人材が最高経営層を占めることにある」と指摘しています。
読者の皆さんの会社を思い浮かべてください。おそらくほとんどがここで指摘されている状態にあるのではないでしょうか?筆者の勝手な思い込みかも知れませんが、日本は「個人より社会を、実力より年功を重視」する企業が多いように感じます。特に歴史や伝統のある企業では、その傾向はより一層強くなるものと推測します。
アマゾンやアップルといった世界的にイノベーティブな企業には、イノベーションを深いところで理解するリーダーがいて、このリーダーが陣頭指揮を執っています。イノベーションを望むならば、チームや組織の最高経営層に創造的スキルを持つ人材を登用することが必要になります。しかしながら、5つのスキルに優れた人材をチームや組織に集めることは重要ですが、5つのスキルに優れた人材だけでチームや組織を構成するのは危険です。イノベーティブなチームを巧みに率いるリーダーは、自らの発見力と実行力の強弱を認識し、自らの弱みを他のメンバーの強みによってしっかり補強しています。5つのスキルに優れた人材と4つの実行力に秀でた人材が互いに影響し合い、学び合い、支え合うことで、イノベーションの強力な相乗効果を生み出す土台ができるのです。
3.最後に
本書の第二部では、イノベーティブなリーダーが率いるイノベーティブな組織のDNAがどのようなものなのかについて言及しています。イノベーティブな組織のDNAには、往々にして創設者のDNAが組み込まれていて、自分に似た人材(People)を集め、イノベーションに必要なスキルを高めるプロセス(Process)を導入し、哲学(Philosophy)を育むという3Pの枠組みが提示されています。
本書の192~193頁に、「組織/チームのイノベーション能力チェック」が掲載されていますので、是非一度試してみてください。点数が低いようですと、読者のチームもしくは組織のイノベーションは停滞しているかもしれません。これを機に、イノベーティブな組織に生まれ変わる取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。
注1:参考図書
クレイトン・クリステンセン / ジェフリー・ダイアー / ハル・グレガーセン(2012)
『イノベーションのDNA-破壊的イノベータの5つのスキル』 翔泳社