【Trend Report】タイムベース“狂騒” ~日本型宅配モデルにイノベーションは起こるか~
連日の物流関連ニュース
週刊ダイヤモンドの5月26日号に「物流クライシス」と題して、昨今話題になった物流業界の人手不足、それに端を発した値上げ攻勢等についての特集が掲載されました。また、5月18日には、リコーの100%子会社であったリコーロジスティクスの株式がSBSホールディングスに一部譲渡されることが報道されました。物流業界におけるニュースが後を絶ちません。
タイムベース競争がもたらしたもの
先日通販サイトで注文し夕方職場に戻ったところ、その荷物が既に届けられていました。特に指定したわけではないのですが、「成り行きお急ぎ便」で頼んだら当日中に届きました。
日本企業の研究から生まれた「タイムベース競争戦略(原題:Competing Against Time)」では、「顧客の購買決定からサービス入手までの時間」が短いほど、「供給業者が得られる利益」が大きくなることを説いています。
一方、現在我々の目の前で起こっているのは、「顧客の購買決定からサービス入手までの時間」のうち、受注処理時間はEコマースの出現によりほぼゼロ化し、供給業者間で差別化が困難になったということ。その結果、商品を顧客に届けるというロジスティクスの領域が競争の主戦場となっている感があります。結果得られたのは、「ロジスティクスを支える宅配事業者の採算が悪化した」という事態です。
宅配と「社配」
話題は変わりますが、同僚に推薦されたことがきっかけで、クリステンセンの「イノベーションの○○」シリーズを読んでいます。シリーズの端緒となった「~のジレンマ」では、ホンダの北米進出のエピソードが紹介されています。いわく、ホンダはハーレー、BMW打倒を目標に大型バイク市場に参入しましたが鳴かず飛ばずで、気晴らしにスーパーカブでツーリングしたところ皆の目に留まり、新たな市場を開拓することになったとのこと。ホンダは当初狙っていたような大型バイク市場ではなく、小型バイク市場を発見し、既存技術で開拓していくことで、バイク市場全体の構造を変えたと言えます。
我が国で発達した宅配モデルは、その成功体験ゆえに再配達などの費用対効果に見合わないサービスを捨てることが出来ていません。「タイムベース競争戦略」の著者のジョージ・ストークJr.は別の論文で、時間戦略により優位性を確立する手段として、①競合との共存、②撤退、③競合への攻撃、の3つをあげており、真の成長につながる道は③競合への攻撃のみである、と説いています。
①については、国交省により宅配事業者と通販業者が参加する「宅配事業とEC事業の生産性向上連絡会」が発足しました。
②については既にご存知の通りです。
③なんて選択肢が宅配市場に果たして存在するのか、どこまで責め好きなんですか、ストークJr.センセイ、と悲鳴を上げたくなるところですが、少し我慢しましょう。
冒頭にご紹介した、リコーロジスティクスを買収したSBSホールディングスは、企業間即日配達を祖業としており、東急ロジスティック、雪印物流等の物流子会社を買収しながら、一千億円超の売上を誇る企業グループとなっています。昨今の目立つ取組みとしては、スポット貨物と空き車両のマッチングを行うサイト「iGOQ」を立上げ、シェアリングモデル事業への参入も始めています。宅配市場のルールを変えるのは、会社間の配送を担っていた「社配」市場の覇者かもしれません。
出所:国土交通省