運送形態別の貿易統計
日本の財務省が公開している貿易統計に、運送形態別の貿易統計が存在します。これは、航空貨物または海上コンテナ貨物ごとの貿易統計情報になります。この統計情報により、ある貨物が、航空貨物として輸出入されているのか、あるいはコンテナ貨物として輸出入されているのかを把握することができます。
例えば、マクロ市場分析として航空貨物輸送の現状や趨勢を把握したり、マーケティング調査の一環として航空フォワーディングサービスのターゲット市場を分析したりする場合、運送形態別の貿易統計は非常に有益な情報源となります。
航空化率
航空貨物として日本へ輸出入される貨物には、どのようなものがあるでしょうか。通常の貿易統計と運送形態別の貿易統計を利用し、2023年の日本の輸入/輸出に占める、航空貨物の輸入/輸出の割合を計算してみましょう。この割合は「航空化率」などと呼ばれます。なお、航空貨物動態を分析する場合には、コンテナ船による輸送を志向するのか、航空便による輸送を志向するのかという輸送分担の観点から、海上コンテナ貨物と航空貨物の合計を分母とし、その合計に占める航空貨物の割合を航空化率(航空分担率)とすることもあります。
航空化率の高い品目
図表1は、日本の輸出における金額ベースの航空化率が70%を超える品目のうち、総輸出額の上位10品目を抜き出したものになります。トップは集積回路で、総輸出額4兆3,360億円のうち4兆2,330億円が航空貨物であり、航空化率は98%となっています。
図表 1 2023年輸出総額上位10品目(航空化率70%超貨物)
(出所:財務省貿易統計)
図表2は、日本の輸入における金額ベースの航空化率が70%を超える品目のうち、総輸入額の上位10品目を抜き出したものになります。トップは輸出と同様に集積回路で、輸入総額4兆190億円のうち3兆9,990億円が航空貨物であり、航空化率は四捨五入すると100%となっています。
図表 2 2023年輸入総額上位10品目(航空化率70%超貨物)
(出所:財務省貿易統計)
当たり前といえば当たり前なのですが、航空貨物運賃は海上コンテナ運賃よりも高いので、航空便で輸出入される貨物は、運賃負担力のある高価格品、小さくてかさばらない貨物になります。半導体、電子製品・電子機器、医療機器、医薬品などはその最たるものであり、航空フォワーディングサービスの最重要ターゲットとなっています。
航空貨物でもコンテナ貨物でもないものとは
運送形態別の貿易統計は、航空貨物と海上コンテナ貨物の2種類となっていますが、この2つの統計を合算した値は、必ずしも総輸出額、総輸入額とは一致しません。その理由は、運送形態には、航空貨物や海上コンテナ貨物以外に、海上ばら積貨物などがあるためです。ここで、輸出入総額に占める、航空貨物でも海上コンテナ貨物でもない比率を、便宜的に「ばら積み・専用船比率」と表現します。
図表3は、日本の輸出総額上位5品目です。輸出総額1位は乗用車ですが、乗用車はPCC(Pure Car Carrier)と呼ばれる自動車専用船で運ばれるため、ばら積み・専用船比率が97%となっています。コンテナ船や航空機で運ばれるのは稀なケースに限られます。半導体製造機器や、ブルドーザー、アンクルドーザー、地ならし機などの建設機器も、コンテナ船や航空機以外で輸送されるものがあることが見て取れます。
図表 3 2023年輸出総額上位5品目
(出所:財務省貿易統計)
図表 4 2023年輸入総額上位5品目、他
(出所;財務省貿易統計)
図表4を見ると、日本の輸入総額上位である原油、石油ガスその他のガス状炭化水素、石炭及び練炭、豆炭は、ばら積み・専用船比率がほぼ100%となっています。
そのほか、鉱物、卑金属及びその製品、木材、穀物など、資源系貨物やコモディティ貨物は、ばら積み・専用船比率が高くなっています。
バナナやキウイフルーツは専用船で運ばれている
私が初めて運送形態別の貿易統計を使ったのは、航空化率の高い青果品を特定するものでした。当初、航空貨物と海上コンテナ貨物それぞれの貿易統計を利用して集計を行っていましたが、ふと、自分の計算が合っているのか不安になり、総額との確かめ算をしてみることにしました。すると、バナナの総輸入額がコンテナ貨物と航空貨物を合算したものと大きく乖離しており「これまでの集計方法が間違っていた!?」と一人で焦った覚えがあります。バナナは温度に敏感で、13℃を超えると熟成が始まるため、冷蔵庫を備えた専用のリーファー船で運ばれることが多い貨物です。専用船で運ばれた貨物は、海上コンテナ貨物の貿易統計に載ってこない、というオチでした。
バナナ以外の青果品でばら積み・専用船比率が高いのは、その他果実(生鮮に限る)となっています。HSコード9桁まで詳細に見ていくと、ばら積み・専用船比率を押し上げているのはキウイフルーツであることがわかります。(図表5)さらに、キウイフルーツの輸入国まで深堀すると、ばら積み・専用船比率が高いのはニュージーランドであり、あの会社が専用船で運んでいるのだろうな、と推察されます。
貿易統計の集計や分析は数字だけの単調な作業ですが、数字から実際の輸送モードや会社の動きが見える瞬間があり、ちょっとしたアハ体験をした気分になります。
以上、貿易統計よもやま話でした。
図表 5 HS0810その他の生鮮果実(生鮮に限る)の内訳
(出所:財務省貿易統計)
(この記事は2024年8月29日の情報をもとに執筆しました。)