【Logistics Report】農業改革で物流業界に影響はあるの? 連載①/連載②
昨今、農業関連の話題が盛んに報道されるようになってきていますね。 伝えられるフレーズも、「企業の農業参入」「植物工場」「農業への IT 導入」「若者の就農支援」「農業の 6 次産業化」「農協改革」「農業所得倍増」「攻めの農業」「新規需要米」などなど実に多種多様です。今号と次号 2 回にわたり、「農協改革」と「新規需要米」の 2 つのキーワードを取り出し、物流に与える影響について考察したいと思います。
2015 年 2 月、農協の中央会組織である全中(全国農業協同組合中央会)が「農協改革法制度等の骨格案」を受け入れる旨を表明したことは記憶に新しい方も多いのではないかと思います。受け入れた骨格案は全中の社団法人化、全中監査部門の分離、全農・経済連の株式会社変更規定盛込み等からなっております。全中、全農・経済連等、農協の組織を意味する言葉は、聞いたことはあるけれども違いがよく判らないと思いますので、少し解説します。農協は「代表機能・指導事業」「経済事業」「信用事業」「共済事業」「厚生事業」「その他事業」と6つの事業を行っており、それぞれの事業を行う組織が「全 国」「都道府県」「市町村」と 3 つの階層に分かれています。組織略図と今次改革の対象を図 1 に纏めました。これらの事業に関して、農協改革の目的として掲げられているのは、地域の農協の経営の自由度を高めることで農業を成長産業化し、結果的に 農家の所得を向上させることです。
しかし、農協では今回の農業改革以前に、既に諸々の流通改革に取組んでおります。例えば、調達物流においては、畜産に必要な飼料原料であるとうもろこしの安定確保を目的として生産地である米国に子会社を設置しており、結果的に規模の経済が働き購買コストを低減するモデルが構築できています。肥料事業についても全農の関連会社が同業他社と合併することが報道発表されており、飼料同様規模の経済を追求し始めています。販売物流では、コメの輸出にあたり輸出先国に精米工場を持つ他社と協働することが先日報道されました。このような革新的な取組みは農協独自に行われており、この動きは政府主導の農協改革如何に関わらず、今後も引続き継続するものと推測されます。
従って、今回の農協改革自体が物流業界に与える影響は殆どありませんが、農協が独自に取組む改革の動きには引続き注視する必要があります。農協のこれまでの取組みからは、「規模の経済による低コストの追求」と、「独自機能を持つ業者との協働」を積極的に行う姿勢を読み取ることができます。物流事業者に求められるのも、低コストで付加価値あるサービスの提供であることは変わりありません。荷主の業界がどこであれ「コスト+α」が物流事業者に求められるのは世の常といったところでしょうか。
図 1 農協組織図と農協改革の対象 出所:JA 全中 HP 等より筆者作成