前回は、2016年12月と2018年1月に日本生産性本部が発表したレポートにもとづき、運輸業については米国の労働生産性を100とした場合、日本は44.3にしかならない、日本が得意とするはずの品質を付加価値に換算し調整したとしても、米国の運輸業の労働生産性100に対し日本の運輸業の労働生産性は52.6にしかならないと述べました。
今回は、どうみても大雑把にしか見えないあの米国の運送事業の生産性が日本の倍近くあるとは到底信じられないと思っておられる多くの方々の疑問に、米国の運送事業を17年近く見てきた筆者がお答えしようと思います。
日本と全く異なる運送事業者と荷主の関係
まずは以下の写真をご覧頂けますでしょうか。
これらは、ある西部地域の物流センター戸前で筆者自身が撮影した写真ですが、左の写真は高床式倉庫のドックにトレーラーが台切りの上置かれている状態、中央の写真はドック前のヤードにトレーラーが同じく台切りの上置かれている状態、右の写真はヤード内トレーラー移動専用の簡易トラクターヘッド(通称”Yard Mule”)です。
米国のトラック運送においてもボリュームの大多数を占めるのは、日本の貸し切り輸送に相当するTL = Trailer Loadです。TL輸送ではほとんどの場合ドライバーは、高床式ドック或いはその前のヤードにトレーラーを台切りした後、次のトレーラーを引っ張って来るため、荷役が始まる前に荷主の施設を一旦離れます。荷主は、ドライバーが次のトレーラーを引っ張って来るまでの間、実入りトレーラーの場合は荷降ろしを終わらせて置き、空トレーラーの場合は荷積みを終わらせて置き、次のトレーラーが来たら荷役済みのトレーラーと交換します。そして、ドライバーはトレーラーを置いて、次のトレーラーを取りに去っていき、荷主は次のトレーラーが来る前までに荷役を終えて置く、というステップを繰り返すのです。高床式ドックが空いていない場合ドライバーは、その前庭のヤードにトレーラーを置いていきますが、ドックが空き次第、前述のYard Muleで荷主側がヤードからドックに移動して、荷役を開始します。
このように、米国のトラック輸送の大半を占めるTL輸送の場合、ドライバーの手待ち時間は通常ほとんど発生しないのです。また、契約社会である米国では「車上請け・車上渡し」の原則が厳格に守られていて、荷主側がドライバーに荷役をやらせません。自社の従業員でないドライバーに自社の施設内で契約外の荷役をやらせて、対人にせよ対物にせよ万が一事故が発生した場合、荷主側が損害賠償請求を受けることになるからです。家の前の歩道の雪かきを怠ったその屋の住人が、その歩道で滑って転んで負傷した歩行者から損害賠償を受ける米国社会です。どうしてもドライバーに荷役をやらせる必要がある場合には、運送契約以外に別途契約を結んで、責任関係を明確に規定し、そして料金を払った上で実施することになります。
ドライバーが無料で、サービス役務として積み降ろし荷役を行うことが常態化している日本では、トラックの積載効率の向上という部分最適のために貨物をパレタイズしないことが多いのですが、積み降ろしの荷役を荷主側が行う米国では、吊り代のあるフレコンバッグのように別途のユニットロード対策が可能な場合以外は、全体最適の観点から、ほとんどの貨物がパレタイズされています。トラックの積載効率を多少向上させることよりも、発着の積み降ろし作業の効率化の方が、全体最適に貢献すると、米国では考えられているのです。
生産性は価値をベースにしており、必ずしも効率とイコールではないという指摘もあるかも知れません。しかし、米国と日本という二大先進国のトラック運送事業を比較するにおいては、効率と生産性は緊密な相関性があると言ってよいでしょう。そのことに着目して上述を読むと、米国の運送事業の労働生産性が、質を加味しても日本の二倍近くある理由が、少しはご理解頂けるのではないでしょうか。
日本以外の島国の運送事業はどうなっているのか?
トレーラー輸送を前提とした米国のトラック運送は、米国の1/25の面積の日本には適用できないし、参考にさえもならないという罵声が聞こえて来そうです。そんな方は、以下の写真をご覧頂けますでしょうか。
これらの写真は、筆者が2015年に英国に出張した時に、ロンドン郊外の高速道路上のサービスエリアで、目に入るままに駐車中の車両を撮影した写真です。日本と同じ島国であり、日本より狭い国土の英国でも、幹線輸送ではトレーラー輸送が主流の時代に入っていることは間違いありません。
日本でも、国際海上コンテナについては、米国のトレーラー輸送と同じように、コンテナをオンシャーシ状態で荷主戸前に台切りすることが多いことを思い出して頂ければ、このようなオペレーションが日本でも不可能ではないことをご理解頂けるのではないでしょうか。