はじめに
現在の日本の物流政策の根本である「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」では、「物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流の実現)」が最初の柱として掲げられています。しかしながら2023年のDX白書によると、物流業界のDX取組状況は20%未満と他の産業群に比べて低いのが実態です。
また、2021年3月の調査結果では物流事業者の60%以上が今後もDX取組を予定しないという結果となっています。一体なぜなのでしょうか?
出典:DX白書2023
国土交通省による物流事業者が感じている「デジタル化導入における課題」のアンケートを見ると、主に「費用」がDXの阻害要因であることが見て取れます。
デジタル化導入における課題
出典:中小物流事業者のための物流業務のデジタル化の手引き
そこで費用(コスト)の課題を掘り下げてみましょう。
イニシャルコスト面の課題
コストにはイニシャルコストとランニングコストの2つがありますが、まずはイニシャルコストについて考えます。物流事業者の多くは中小事業者であるため、前提として資本力が弱いことを考える必要があります。つまり一括払いで数千万~数億するようなソリューションの導入は難しいです。仮にその資本力があったとしても、費用対効果が出ないことを理由に導入されないケースもあります。
ランニングコストの課題
続いてランニングコストの課題を考えます。多くのDXソリューションはネット環境が必要なケースが多いため通信費や電気代が発生します。また、保守・サポート費用は必須ですし、ベンダーへの支払が月々発生するのはよくあることです。これらを支払いしてもシステムが止まってしまった場合は業務が止まるリスクがありますし、人力でやりきる方が現場から見るとリスクが低く見えてしまいます。
費用対効果が出せないのはなぜか
1つ目の理由として投資回収期間と荷主との契約期間にギャップがあることがあげられます。多くのロボットベンダーは回収期間を5年~8年と置くケースが多いのですが、一般的に物流事業において荷主との契約期間は2~3年と置くケースが多いです。つまり、DXソリューションを高額で投資しても、投資回収を終えるまで荷主が契約継続する確証はなく、物流事業者側がリスクを背負わざるを得ないのです。
2つ目の理由としては他顧客への展開が困難であることです。日本の物流現場の標準化が進んでいないことがDXソリューションの横展開を阻害しています。他顧客への展開ができないことで1つの荷主・現場である程度の荷量・作業量が無いと費用対効果を出すのは非常に困難です。
3つ目の理由として、既に人中心の業務で高い生産性を実現しているというケースがあります。以前のブログ記事である「シリーズNX総研の社長が語る5 EU理念の深化による経済活動の変化―後編:物流への影響と日欧の働き方」にも記載がある通り、日本は人中心の現場改善を推進している現場には多くあり、DX導入の費用対効果を試算する際に費用対効果が合わないということが頻繁にあります。物流コストは上がっても、物流DX推進により出荷量の増加に対応できたり、保管効率を上げたりすることで荷主の売上機会に貢献するという視点も大事です。
解決策とは?
ここまでかなりネガティブに物流DXの阻害要因を掘り下げてみましたが、上手く進んだ事例もあります。国土交通省から「物流・配送会社のための物流DX導入事例集 ~中小物流事業者の自動化・機械化やデジタル化の推進に向けて~」という事例集が紹介されています。
こちらに記載がある通り、実はDXソリューションはかなり広い業務範囲で導入ができます。自動化や機械化は初期費用が高い傾向にありますが、デジタル化に関しては初期費用が少なく、サブスクリプション(月払い制)での支払いも可能となってきています。
出典:物流・配送会社のための 物流DX導入事例集 ~中小物流事業者の自動化・機械化やデジタル化の推進に向けて~
さいごに
物流DXによって実現すべきことは一体何でしょうか?国土交通省は物流DXについて、物流DXは「機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革すること」と述べています。物流のこれまでのあり方というのは所謂「属人化」ということだと考えます。属人化から標準化に向かうことで、「人手不足」という将来必ず直面する課題に対応できます。今すぐにDXに取り組めないとしても、「標準化」を進めることで物流DX導入の準備ができます。まずは目の前の属人化作業を見直してみてはいかがでしょうか?
(この記事は、2024年3月28日時点の状況をもとに書かれました。)