*ChatGPT DALL-E3による生成画像を筆者で加工
「水素エネルギーって聞くけど、実際どういうもの?脱炭素社会に役立つの?本当に流行るの?爆発しそうでこわい・・・」こんな疑問や気持ちを抱えるあなたへ。
この記事では、水素への投資が止められない水素フリークの私が、この世界を変える可能性を秘めた水素の基礎からその魅力まで、まずは今のうちに最低限知っておいて欲しい事項を網羅して、簡潔に解説します。ご覧いただくことで、こっそりと、一通りの基本知識が身に着き、脱炭素社会への水素エネルギーの役割が明確になるでしょう。
さらに、次回以降の記事では水素エネルギーが物流業界を含むさまざまなセクターにもたらす革命的な影響や、そもそもどんなプレーヤー(企業等)が活躍しているのか、といった点にも焦点を当て、水素の可能性を探求していきます。さあ、水素の沼にご一緒しましょう。
目次
1.水素エネルギーの概要
水素エネルギーとその基本
水素エネルギーは、水素を燃料として使用することで得られるエネルギーです。
「燃料として使用」は、大きく分けて2種類を理解しておけば良いでしょう。
①燃やすことで別のエネルギーを生み出す。
例:エンジンで燃焼させて運動エネルギーに変換する。
②酸素(空気)と反応させて燃料電池として電気と熱を生み出す。
例:燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)や家庭用燃料電池(エネファーム)
日常生活で水素に馴染みのある方は少ないと思いますので、FCVの日本での代表車種であるトヨタ自動車の「MIRAI」をベースに、車両概略や水素の価格感等々を簡単に纏めてみました。水素のある生活を少しイメージしてみて下さい。
*「MIRAI」の実測航続距離は600km前後の模様。(筆者作成)
水素エネルギーの利点は、何といっても利用時に水以外の副産物を排出しないクリーンなエネルギー源であることです。
ただし、地球上で最も豊富な元素である水素ですが、自然界では水や有機物と結合しています。そのため、水素を上記のように利用してエネルギーに変換するには、これら水や有機物から水素を分離するプロセス、言い換えると水素をわざわざ作ることが必要になります。後に触れますが、この点は少々厄介事の一つとして水素エネルギーの話に付きまとうことになります。
水素利活用機運の変遷
昭和の時代から現在(2023~2024年)にかけて、日本における水素エネルギーの利活用と水素社会の実現に向けた機運の変遷は、いくつかのフェーズを経ています。
①昭和時代:
エネルギーの多様化として水素エネルギーの可能性が認識され始めました。しかし、技術的な課題や経済的な制約が大きく、具体的な社会実装には至りませんでした。
②平成初期:
1990年代に入ると、地球温暖化問題への関心の高まりと共に、CO2排出のないクリーンなエネルギー源として水素エネルギーに再び注目が集まり始めました。特に、再生可能エネルギーからの水素製造技術の研究が進められました。
③平成後期~令和:
2010年代に入ると、水素社会に向けた構想が具体化し始めました。2017年には、日本政府が「基本的な水素戦略」を発表し、水素エネルギーの利活用を国家戦略として位置づけました。そしていよいよ2020年代に入り、技術的進歩とコストの低減、国際的な協力の強化により、水素社会実現に向けた機運が急速に高まっている状況です。官民一体となった取り組みが活発化し、水素を「つくり」「はこび」「ためて」「つかう」全ての段階での進展が見られます。
*筆者主観に基づく日本での水素利活用機運の変遷イメージ図。(筆者作成)
水素の環境にやさしい特性とその重要性
さて、あらためて水素の最大のメリットは、燃焼時に二酸化炭素を一切排出しないことです。水素を燃料として利用する際、生成される副産物は水だけ。この点が、水素エネルギーが環境に優しい理由です。現代社会では二酸化炭素の排出削減が急務とされており、水素エネルギーはその有力な解決策の一つとして期待されています。
問題は、利用するための水素をどのように手に入れるかという点です。手に入れる=生成する 方法もクリーンで環境に優しい方法であれば、より持続可能なエネルギーシステムの構築が可能になります。それでは、次に水素の生成方法についてみてみましょう。
2.水素の生成方法
水素の生成方法には様々な技術があります。このセクションでは、主な生成方法とその特徴に加え、「色」によって区分される水素の種類と環境への影響について解説します。
主な生成方法と特徴
①電気分解
電気分解は、水(H2O)に電気を流すことで、水素と酸素に分ける方法です。クリーンエネルギーを電源とする場合、この方法で生成される水素は環境に優しいとされています。ただし、大量の電力が必要、つまり高コスト、というデメリットもあります。
②化石燃料からの改質
天然ガスや石炭などの化石燃料から水素を抽出する方法です。現在最も一般的な水素の生成方法で、コストも比較的低めですが、二酸化炭素を多量に排出するため環境負荷が高いことがデメリットです。
③バイオマスからの生成
木材や作物残渣などのバイオマスを原料として水素を生成する方法です。バイオマスは再生可能な資源であるため、環境にやさしい水素の生成方法とされています。しかし、効率や技術的な課題がまだ解決されていない面もあります。
水素の「レインボーカラー」と環境への影響
水素の「レインボーカラー」とは、水素を製造する方法によって分類される様々な種類の水素を指します。これらの種類はそれぞれ異なる色で表され、水素がどのように生成されるか、そしてその過程が環境にどのような影響を与えるかを示しています。便宜的に色で表現しているだけで、実際の水素はもちろん無色透明です。
*ピンク・イエローなど、様々な水素カラーの定義が存在する。(*ChatGPT DALL-E3により生成)
代表的な色としては、「グリーン水素」が挙げられます。グリーン水素は、再生可能エネルギー源(太陽光、風力など)を利用して水を電気分解し、水素を生成する方法で作られます。この方法では化石燃料を使用せず、温室効果ガスの排出もありません。そのため、グリーン水素は最も環境に優しい水素の製造方法とされ、脱炭素化に向けたエネルギー源として大きな期待が寄せられています。
他にも、「ブルー水素」や「グレー水素」などがありますが、これらは化石燃料を利用するため、CO2の排出削減には直接貢献しません。ただし、ブルー水素の場合は、CO2の捕捉・貯留技術(CCS:Carbon Dioxide Capture and Storage)を組み合わせることで、大気中に排出されるCO2を大幅に削減することが可能です。
水素エネルギーはその利用時のクリーンさで注目されていますが、生成方法によって環境への影響は大きく異なります。グリーン水素のような持続可能なエネルギー源への移行は、地球温暖化の対策として非常に重要であり、将来的にはグリーン水素が水素エネルギーの主流とならないことには、本当の意味での水素社会の実現には至らないと思います 。今後、より持続可能な、低コストの方法で水素を生成し、利用していくための技術開発が重要です。それでは、実際の利用シーンを次のセクションでみてみましょう。
3.水素の応用と展望
水素エネルギーは、持続可能な社会構築における中心的な役割を果たす大いなる可能性があります。このセクションでは、水素エネルギーの魅力的な利用方法と、その幅広い応用分野に焦点を当てます。
燃料電池技術とその応用
燃料電池は、水素と酸素の化学反応から電気エネルギーを生成する装置です。この反応の唯一の副産物は水で、燃料電池技術が環境に優しい理由の一つです。
自動車産業では、水素燃料電池車(FCV)がガソリン車や電気自動車(EV)の代替として注目されています。国際エネルギー機関(IEA)でも、今後、大型バスや大型トラックなどでの水素燃料電池車化が進み、2050年には水素が道路交通エネルギーの16%程度を占めることになると予測しています。EVとの優劣がしばしば引き合いに出されますが、走行距離の長さや燃料補給時間の短さなど、FCVにはEVにない優位性がいくつもあります。
また、家庭用燃料電池(エネファーム)は、エネルギー効率の高い電力と熱の供給源として、住宅分野での利用が進んでいます。さらに、発電分野においても、燃料電池は安定したクリーンエネルギー供給の可能性を秘めています。
*京浜急行バス導入1台目のトヨタの燃料電池バス「SORA」(価格:約1億円)
(2019年3月JR大井町駅前にて筆者撮影)
水素エネルギーの産業応用
水素エネルギーは、その高いエネルギー密度とクリーンな特性から、産業界全体での利用が期待されています。
鉄鋼業界では、高温の製造プロセスに必要なエネルギーを供給するために水素が用いられ始めています。また、化学産業においても、原料や熱源としての水素の使用が検討されています。更に、物流・輸送・交通セクターにおいても、大型トラックや船舶、さらには航空機に至るまで、水素エネルギーの利用が進められています。
水素エネルギーの応用可能性はこれだけに留まらず、新たな技術開発とともに、その利用範囲はさらに広がりを見せています。技術の進展とともに、持続可能な未来に向けた水素エネルギーの役割はますます重要になっていくでしょう。
4.水素エネルギーの影響:メリットとデメリット
水素エネルギーという革新的なエネルギー源にも、やはり利点と欠点が共存します。ここでは、環境、経済、安全性の観点から、そのメリットとデメリットを整理しておきます。
環境への影響、経済性、安全性に関するメリットとデメリット
①環境への影響
メリット:水素エネルギー最大の魅力は、使用時に二酸化炭素を排出しないことです。燃料電池での使用時、副産物は水のみ。このため、地球温暖化の主要な原因である温室効果ガスの排出量を削減することが可能です。
デメリット:水素の生成方法により、環境に対する影響が異なります。化石燃料から水素を生成する場合、その過程で大量の二酸化炭素が排出されることがあります。
②経済性
メリット:水素エネルギーは、長期的には化石燃料に依存しない経済システムへの移行を可能にします。再生可能エネルギーを利用した効率的な水素生成が増えれば、エネルギーのコストは大幅に削減される可能性があります。
デメリット:現在の水素エネルギーのインフラはまだ発展途上であり、初期投資が大きいという課題があります。また、水素の輸送と貯蔵には特別な技術が必要で、コストがかかります。
③安全性
メリット:水素は適切な安全対策を講じれば、他の燃料と同様に安全に取り扱うことができます。実際、水素はすでに化学産業や石油精製で広く使用されており、その取り扱いに関する豊富な知見があります。
デメリット:しかし、水素は非常に反応性が高く、漏れや不適切な取り扱いが原因で爆発のリスクがあるため、安全対策は極めて重要です。特に、公共の場や家庭での使用拡大には、徹底した安全基準と教育が不可欠です。
5.水素エネルギーの未来展望と挑戦
水素エネルギーは、持続可能な未来を実現するための有望な解決策ですが、その道のりは平坦ではありません。全面的な導入には、技術的、経済的、規制上のハードルをクリアする必要があります。このセクションでは、水素エネルギーの明るい未来と、その実現に向けて乗り越えなければならない課題を探ります。
技術開発と市場拡大への期待
水素エネルギー技術は絶えず進化しており、特に効率的な水素の生成、輸送、貯蔵方法の開発が期待されています。
輸送でいうと、水素の液化にはマイナス253度以下の環境が必要なため、特殊な大量輸送手段やインフラが必要になり、高コストとなります。そこで、運びやすい物質に姿を変えた上で長距離大量輸送を行いやすくする技術が既に確立されています。具体的には、常温でも液化が容易なアンモニア(NH3)に水素を変換して運搬をするという、アンモニアを水素キャリアとして活用する取り組みが注目されます。
また、このように水素の輸送・貯蔵が行いやすくなると、燃料としての水素が新たな輸出商品となり得ます。広大な国土で大量の水素生成ができる国、オーストラリアやカナダなどは既に資源輸出の主力商品となる道筋を国として描いている状況です。
ロシアからの天然ガス輸入が滞って痛い目をみたドイツですが、既にカナダから水素燃料の供給を受ける協定を結ぶなど、エネルギー安全保障の面でも水素は既に大きな関心の的となっています。
燃料としての供給体制に加え、利用する側である燃料電池の技術革新や水素を活用した製品の市場導入が進み、また各国政府レベルでの財政投入等の活発化で、この分野はさらなる成長を遂げるはずです。ごく一例ですが、国内外で実証実験・試運転等を含めて技術開発や市場投入が進んでいる最近のトピックを以下のとおり掲載しておきます。将来的に水素は、多様なエネルギー需要に対応する主要な資源としての役割を果たす可能性があります。
*国内外で毎日のように新たなニュースが舞い込んでくる状況。(筆者作成)
実用化と普及に向けた課題の克服
*海水の電気分解技術もほぼ確立されてきている。(ChatGPT DALL-E3により生成)
水素エネルギーの普及に際しての重要な課題を整理すると以下のようになります。
①水素の生産コストを削減し、経済的に競争力のあるエネルギー源とする必要があります。再生可能エネルギーを利用した水素生産が鍵となりますが、そのためにはさらなる技術革新が必要です。
②水素の輸送と貯蔵のためのインフラの整備が欠かせません。水素は非常に軽く、高圧や液化など特別な方法で取り扱う必要があります。このため、安全かつ効率的に水素を輸送・貯蔵するためのインフラの構築が必須です。
③水素エネルギーの安全性を確保することが重要です。水素は反応性が高く、取り扱いには十分な注意が必要です。安全な利用のためのガイドラインの策定と、それに基づく教育・訓練が求められます。
*インフラの充実には政府の大規模財政投入が必要(ChatGPT DALL-E3により生成)
水素エネルギーの将来性は非常に大きいものの、その実現には技術的、経済的、そして安全上の課題を克服する必要があります。これらの課題を乗り越え、水素エネルギーの持つポテンシャルを最大限に引き出すためには、政府、産業界、研究機関が連携し、継続的な努力を重ねることが不可欠です。
6.まとめ
重要なポイント
①水素エネルギーの基本:クリーンなエネルギー源としての水素は、燃焼時に副産物として水のみを排出し、温室効果ガスを発生しません。
②生成方法の多様性:水素は電気分解、化石燃料からの改質、バイオマスからの生成など、様々な方法で生産可能です。再生可能エネルギー源を利用して水を電気分解して生成された「グリーン水素」の環境貢献度が高い。
③広範な応用分野:燃料電池車や発電、家庭用燃料電池など、すでに多岐にわたる分野で水素が利用されています。
④経済性と環境への影響: 水素エネルギーの普及には、コスト削減と再生可能エネルギーからの生産が鍵です。
⑤持続可能性への挑戦:水素エネルギーの利用拡大には、コスト削減、インフラの整備、安全性の確保を実現する必要があります。
水素エネルギーは持続可能な未来への切り札であり、われわれの主戦場である物流業界にも革新をもたらす可能性を秘めています。水素燃料の利用は、運輸セクターにおける炭素排出量の削減に貢献し、クリーンで効率的な物流システムの構築を可能にするはずです。今後、「シン・水素時代」と物流の関連性に焦点を当て、この分野での技術革新や展開の可能性をさらに探求していく予定です。この未来志向のエネルギー源を存分に活用することで、物流業界は環境への影響を軽減しつつ、そのプレゼンスを向上させることが期待されます。
(この記事は2024年3月31日時点の情報をもとに執筆しました。)