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CLO選任にあたり必要なこと

CLO選任にあたり必要なこと

いよいよ物流業における時間外労働の上限規制が始まり、発荷主事業者・物流事業者・着荷主事業者が連携してより一層、物流の適正化と生産性の向上を図っていくこととなりました。
2023年6月に経済産業省・農林水産省・国土交通省から出された「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取り組みに関するガイドライン」では、特に荷主事業者において、物流の適正化・生産性向上に向けた取り組みを事業者内において総合的に実施するために物流業務の実施を統括管理するもの(役員等)を選任することが求められます。また、「物流管理統括者は、物流の適正化・生産性向上に向けた取り組みの責任者として、販売部門、調達部門等の他部門との交渉・調整を行う」とされたことから、物流統括管理者(CLO=Chief Logistics Officer:以下、CLOと呼ぶ)という存在がにわかに脚光を浴びてきています。ガイドラインで書かれたものの、実際に導入する企業の中ではいわゆるCLOの役割・定義が不明確としてどのように設置すればよいのか戸惑いも見られます。
本稿ではCLOの役割を整理し、CLOが機能する上で荷主事業者として必要となる対応について整理したいと思います。

CLOとは何をする人?

CLOは、物流の適正化・生産性向上に向けた取り組みの責任者として、販売部門、調達部門等の他部門との交渉・調整を行うことを求められます。欧米では物流現場担当者ではなく、経営的視点から物流を戦略的に統括して意思決定できる執行役員クラスのポストであり、大学など高等教育課程でもロジスティクスに関するカリキュラムも数多く存在しています。
一方、日本国内企業における物流部門に対する認識の多くは、「コストセンター」「製造・営業部門の業務下請け部門」「うまくやって当たり前」といったものではないでしょうか。
しかしながら荷主事業者の事業活動を取り巻く環境は著しく変化してきており、2024年問題に発する輸送力の確保、CO2排出量削減、人権対応をはじめ、事業継続・拡大に向けた最適化・効率化など対応すべき項目は増えるばかりです。事業活動の基盤である調達・生産・販売・返品回収など製品のライフサイクル全般にわたる活動を行う上で共通する機能は、「ロジスティクス」と言えます。事業活動を支え、その最適化に寄与する機能は「物流・ロジスティクス」であると言っても過言ではないと思います。私たちは、改めてこれまでの認識を変える必要があるのです。

CLOが機能するために

荷主事業者において、ただCLOを設置すればよい、というわけではありません。なぜならまだ多くの国内事業者ではCLOが十分に機能できる環境が整っていないからです。

担当範囲と権限、やるべきことと組織

前述した通り、日本の荷主事業者では物流部門が製造・営業部門の業務下請け部門と受け止められている場合が多く見られます。その中でいきなりCLOが設定されても十分な機能は期待できません。まずは、CLOの対応範囲を決めることから始める必要があります。

①担当範囲

1事業者の中で複数の部門をまたいで管理するのか、国内グループ会社までとするのか、グローバル全体を管理統括するのか、という企業グループ全体における位置づけを明確にします。CLOの本質からすればグループ・グローバル全体を管理統括するのが理想だと思いますが、事業者ごとに事情は異なります。まず、できるところから始めるのでも良いと思います。
また「部門をまたぐ」ということは1事業部門の中で調達・製造・販売・返品回収などすべての事業活動を管轄するのか、全く異なる事業部門を統括管理するのか、と個々の事業者における対応範囲を決めます。このあたりは事業者ごとに歴史も含めて事情が異なり、最終形と初期の状態は異なってくると想定されます。責任範囲を広げればそれだけ多大なパワーがかかり、全容把握にも時間とコストがかかることになります。事業者ごとにあるべき姿を設定し、そこまでの到達プロセスを設定して進めていくべきだと考えます。

②権限

CLOが「物流の適正化・生産性向上に向けた取り組みの責任者として、販売部門、調達部門等の他部門との交渉・調整を行う」ということであれば、CLOの役割範囲は、調達・製造・販売・返品回収などすべての事業活動にまたがります。そして他部門と調整を行っていくということは、内容によって他部門に対して提案や指示を行うこととなり、それを実現するためには、他部門の責任者と同等の権限を有する必要があります。従来見られた「物流部門は言われたことをやっていれば良い」という認識では済まされません。

③やるべきこと

CLOによる物流の適正化・生産性向上に向けた取り組みを行うために、まずやるべきことは、事業活動に関わる物流全体の可視化です。可視化するものは物流の流れ(情報・モノ・人)、物流にかかるコスト、品質・納期をはじめとするサービスレベル、労務管理・委託先管理から見る安全対応、顧客等と取り決めた諸条件などになります。これらを整理するには現場視察、ヒアリング、諸データ分析によって行います。
整理された現状から課題を抽出します。あるべき姿を設定してそれとのギャップを認識し、あるべき姿の実現に向け、抽出された課題を改善していくことになりますが、一気に実現できるわけではないので改善計画を策定し、推進していき、想定された期待効果が得られているか、継続的に遂行されているのか、というモニタリングも必要不可欠です。
こうした実務的なことから物流を一つの事業としてとらえた構想策定、実現に向けた戦略・戦術の策定(上記の改善活動もこの中に含まれます)、関係部門との調整・提言など盛りだくさんです。

④組織

前述した内容を行うのはCLO一人でできることはありません。いわゆる物流管理組織を設置し、チームで業務にあたっていく必要があります。

CLOを機能させるためには、業務範囲を明確化し、権限を設定し、行うべきことを明確化する。そして、実行部隊として物流管理組織を設置することが第一に行われるべきことだと思います。

過去の経験

筆者の前職における経験になりますが、当時、筆者は2事業部門の物流管理(条件設定・契約・個別業務発注・品質管理・請求窓口)を担当していました。一方、全社業務の拡大により新たな事業部がそれぞれの商品について物流管理を行うようになってきていました。ある時に筆者が管理する委託事業者に対して、他の事業部から発注されている業務が類似しているにもかかわらず単価などの条件が異なる内容で契約されていることが分かりました。
各事業部にヒアリングを行い、委託事業者に対して委託条件の統一によるボリュームディスカウントの交渉も行い、再度各事業部に委託条件の見直しとメリット・デメリットを提示し社内交渉をしました。結果的に条件改定に合意を得、契約窓口を筆者の部署で行うこととなりました。その過程では、各事業部からの発注量、トラブル情報、今後の事業展開意向などを定期的に共有し、委託事業者に対して交渉に臨んだのです。残念ながら社内調整は決して順調に進んだわけではなく、「納期などの委託条件は変えられない」「メリットが少ない」「他事業のものに言われる筋合いはない」など最初のうちはけんもほろろに扱われました。辛抱強く各事業部長を説得し実現にこぎつけましたが、今にして思えばCLOがいれば(自分がCLOだったら)どれだけスムースに事が進んだのだろう、と思います。そしてこの取り組みは決して自分一人だけでできたわけではありません。趣旨を理解し、ともに歩んでくれた仲間たち(組織)があっての賜物です。

最後に

筆者の経験もCLOとして1つの役割・機能だと思いますが、改めて荷主事業者としてどのような役割・機能をCLOに求めるのか、そしてCLOにどのような権限を持たせるのか腹を据えて決めていく必要があると思います。

(この記事は、2024年4月3日時点の状況をもとに書かれました。)

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