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物流の無駄からサプライチェーンを考える

物流の無駄からサプライチェーンを考える

物流の無駄と必要性

弊社ではしばしば物流の効率化がテーマとなります。物流の効率化とは、平たく言えば無駄の無い物流を作るということになりますが、この物流の無駄とは何を意味するのでしょうか。物流の無駄とは倉庫の空坪、低積載のトラック、長大な作業動線といった現場で目にするもの、あるいは不動在庫のようなデータから読み取れるものではありません。なぜならこうした現場やデータを眺めていても、“なぜ”そのような物流が発生しているのかについては知ることはできないからです。「何が必要なのか分からないと、無駄なものも分からない」のではないでしょうか。
手順の見直し、自動化の導入といった取り組みは、直接的には物流の能力(=生産性)を高めるための取り組みであり、物流の必要性それ自体には触れられず、むしろそれが自明の前提とみなされています。能力の向上に取り組むことはもちろん重要なのですが、そもそも必要性に基づかないモノの動きが要求され、それが物流の仕組みに課せられているとすれば、この必要性に基づかない要求の方にこそ目を向けるべきです。

物流の必要性とサプライチェーンデザイン

作業や輸送といったモノを運ぶ仕組みが手段なら、その裏にはモノを運ぶ目的―物流の必要性―があります。必要性を過大に捉えてしまうと、必要性を超えた要求を満たす手段も必然的に過剰=無駄なものとなってしまいます。物流の必要性についてもう少しかみ砕いて考えてみます。(図表1)では物流の必要性をより具体的に表現するための観点を紹介しています。物流の必要性をこうした観点から規定できれば、その必要を最小の資源で実現する手段を講じることで、無駄の無い物流を作れるのではないでしょうか。
この物流の必要性とは、物流の仕組みを大元で規定するものという意味で、サプライチェーンと言い換えることもできます。そしてこの必要性を上に挙げた様々な観点から表現し、モノを運ぶ目的を与えることを、ここではサプライチェーンのデザインと呼びたいと思います。

図表1:物流の「必要性」とは
<図表1:物流の「必要性」とは
NX総研作成

サプライチェーンデザインの困難

無駄の無い物流のためには、物流の必要性を自明とせず、本来の必要性=目的を積極的に規定するサプライチェーンをデザインしなければなりません。しかし、ここには困難があります。
困難の一つに、物流の必要性を規定する役割がしばしばサプライチェーンを担う役割によって分担(断)されていることが挙げられます。サプライチェーンは、最終的な商品の供給先である顧客(需要の発生)から原料資材の調達までを、必要性の連鎖でつなげる一本の線です。しかし企業の事業活動ではサプライチェーンを流れるモノの規模や種類が絶えず拡大していくことから、サプライチェーンは専門化された組織によって担われることが通常です。
ここでは営業・生産・購買・需給調整の4つの専門組織=部門を想定し、それぞれの部門がどのような目的意識を持つか考えてみましょう(図表2)。各部門は、サプライチェーンにおける自らの効用を最大化することを目指します。営業は顧客満足による売り上げの最大化を、生産は稼働率の最大化による生産コスト最小化を、購買単価の最小化を、そして需給調整部門は在庫と欠品の最小化を目指すでしょう。一方で、他部門のルールや制約は自部門にとって一種のブラックボックスとなります。

【図表2】サプライチェーンの役割分担と意識の隔たり
【図表2】サプライチェーンの役割分担と意識の隔たり
NX総研作成(参考情報:Inchainge社・日立ソリューションズ東日本 提供情報)

トレードオフの発生

こうした状況では、それぞれの部門が自部門の都合の良いように必要性を規定し、互いの意識の隔たりに気づかないまま自部門の効用の最大化に邁進しがちです。これが本来の必要性を超えるサプライチェーンへの過大な要求を招きます。
例えば、購買部門は調達価格の低減に取り組みますが、対価として大ロットでの取引や、サービス、品質面の低下を受け入れることが必要です。しかし、こうしたデメリットに対峙するのは、実際は購買以外の部門です。在庫の増大・欠品リスクは需給調整が、不良品や生産効率の低下は生産が引き受けなければなりません。
この「あちらを立てればこちらが立たず」の状況はトレードオフの関係ともいいます。トレードオフがもたらすデメリットを波及させないためには、緩衝地帯(バッファー)を設けることになり、これは最終的には在庫の積み増し、つまり本来の必要より多く調達し、より多く製造し、より多く在庫すること(しかしより多く売ることにはならない)へと繋がっていきます。必要性を超えた要求の発生、物流の無駄が発生する状況は、このトレードオフが原因となっているのです。

サプライチェーンを体験する

先に挙げたようなトレードオフによる物流の無駄を乗り越えるためには、各部門が互いに影響しあう関係性を理解し、背後にある部門のルールや制約―自部門の都合の良いように規定された必要性―を変えていかなければなりません。
こうした変化へのアイデアを提供するため、NX総研では、サプライチェーンをテーマとしたゲームによる教育プログラムの提供を開始しました(図表3)。このゲームでは、ゲーム内の企業(飲料メーカー)の経営にあたる4人のメンバーが、営業、製造、購買、需給調整の4つの役割を分担し、経営の立て直し(ROIの最大化)に従事します。ここで特に重要なのが、先に述べたトレードオフの関係性です。
ゲーム内のトレードオフは事業の構造的な条件やサプライチェーンを構成する各役割が持つ制約に由来し、行動には常にメリットと、そして他部門へと波及するデメリットがあります。自部門のメリットだけを追求すればサプライチェーン全体の停滞によって損失を被ることになります。バッファー(在庫)を設けることもできますが、これは先に述べたようにあらゆる場面で物流の無駄=ROIの低下を招きます。

図表3:サプライチェーン体験型ゲーム
図表3:サプライチェーン体験型ゲーム
Inchange B.V. ホームページより

ゲーム画面の例(経営ダッシュボード)
ゲーム画面の例(経営ダッシュボード)
NX総研作成(参考情報:Inchainge社・日立ソリューションズ東日本 提供情報)

トレードオフから相補性へ

ゲームで成功を収めるためには、サプライチェーンに組み込まれた無数のトレードオフを理解することが必要です。そして互いの行動がもたらす互いへの影響を予想し、これを制御するために行動する、つまり自部門のルールや制約を変えていくことが求められます。
自分の部門の行動がもたらすデメリットは、他部門での行動によって埋め合わせなければなりません。そのためには、どのような波及効果があるかを発生に先立って説明し、適切な行動のため、必要な情報やデータを提供しなければなりません。このようにすることで、トレードオフは回避不可能なジレンマではなく、相補的に乗り越え可能なものとなるのです。
ゲームの詳細なルールや進行については、紙幅の都合上、別の機会に紹介したいと思いますが、無駄のない物流を追求するためには、時には物流の作業システム的な面から視点をずらし、物流の必要性=サプライチェーンの視点に立ち戻ることも必要です。弊社の教育プログラムがそうした視点と行動の一助となれば幸いです。

【注】
本記事で紹介したサプライチェーン教育プログラムの詳細については、弊社ニュースリリース(2022年10月7日)「NX総研が、サプライチェ-ンマネジメント教育プログラムの提供を開始 ~日立ソリューションズ東日本と連携し、製造業・物流業界のSCM人財育成に貢献~」をご覧ください。

(この記事は2022年10月26日の情報をもとに書かれました。)

この記事の著者

◆出身地:大阪府岸和田市 ◆血液型:A 型 ◆趣味:旅行、音楽鑑賞、料理
2003 年 同志社大学文学部 卒業
【得意分野】 ・物流戦略策定 ・輸送ネットワーク再構築 ・物流現場改善支援

近年は弊社にもグローバル化の波が訪れており、国際物流に関する調査が増えつつあります。従業員に対しても社長の号令があり、私を含む若手社員が英会話教室を受講しています。昔と違い、最近は教室に通わなくても、24 時間、ネット上で授業を受けられるサービスがあり便利です。英語の学習としては少し物足りないのかもしれませんが、1日約 30 分間、英語で会話することは、「ちょっとした言い回しを忘れないようにする」「英会話に慣れておく」といった用途にはちょうどいいのではないかと思っています。
とはいえ、最近は、日々の業務の忙しさにかまけ、サボり気味になってしまっているのですが…。社長に叱られる前にねじを巻き直したいと思います。

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