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各業界が2024年問題に立ち向かう:自主行動計画の策定状況について

各業界が2024年問題に立ち向かう:自主行動計画の策定状況について

物流業界が直面する2024年問題は、トラック運転手の残業時間を制限し、業界全体の作業効率に深刻な影響を与える可能性があります。この問題に対処するため、政府は「物流革新に向けた政策パッケージ」を発表し、業界全体の作業効率を最適化することを目指しています。それを受け、27の業界団体はこの問題に対応するため、政府の政策パッケージに基づいて「自主行動計画」を策定し、対策を講じています。本稿では、運送時間を短縮するための各業界の取り組みを分析し、著者の視点で、各団体の「自主行動計画」を評価し、個人的な提案を行います。

2024年問題の影響

日本は、高齢化と出生率の低下という二重の課題の影響を受け、将来の労働力不足に直面しています。それに伴い、物流業界も同様の問題に直面しており、特に2024年からの労働法制改革の実施により状況は一層深刻化しています。具体的には、2024年4月1日以降、トラックドライバーの労働時間と残業時間が制限されました。新しい政策が導入される前、トラックドライバーの労働時間は年間3516時間であり、残業時間は制限されていませんでした。ですが、2024年4月から、労働時間は年間3300時間に制限され、残業時間は960時間に削減されます1。(表1)

表1:2024年問題による労働時間の制限
表1:2024年問題による労働時間の制限
出所:国土交通省 『物流の2024年問題について』より筆者が取りまとめ

国土交通省が公表したデータによると、2024年問題の影響により輸送能力は14.2%減少し、不足する営業用トラックの輸送トン数は4億トンになるということです2。また、発荷主別の試算では、「農産・水産品出荷団体」が32.5%と不足する輸送能力が最も多く、「飲料・食料品(製造業)」、「卸売・小売業・倉庫業」でも9.4%が不足する試算結果となっています3。さらに、NX総合研究所が国土交通省の検討会に提示した試算によれば、このままの状態を放置した場合、2030年までに輸送能力はさらに34%(9億トン相当)減少する可能性があると見込まれています4。(表2)

表2:2024年問題の影響
表2:2024年問題の影響
出所: 国土交通省 『物流の2024年問題について』より筆者が取りまとめ

この問題に対処することは非常に重要であり、政府や関連業界団体は迅速に最適な解決策を見つけるために努力しています。

「物流革新に向けた政策パッケージ」と商業種・分野の「自主行動計画」

政府では、2023年3月31日に、 「我が国の物流の革新に関する閣僚会議」が設置され、関係行政機関に緊密な連携の下、荷主・事業者、一般消費者が一体となって、物流を支えるために、総合的な検討を行いました。同年6月2日に第2回の会議が行われ、商慣行の見直し、物流の効率化、荷主・消費者の行動変容に関する抜本的かつ総合的な対策をまとめた「物流革新に向けた政策パッケージ」が決定されました5。前述した3つの主題には、24の項目が付随しており、以下の表にはそれぞれの項目に対応する具体的な目標と行動がまとめられています。(表3)

表3:6/2 物流革新に向けた政策パッケージ
表3:6/2 物流革新に向けた政策パッケージ
出所:内閣官房『我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議物流革新に向けた政策パッケージについて』から抜粋

2024年問題の影響により、将来的には約14万人のトラックドライバーが不足する可能性があるため、27の業界団体と組織はそれぞれ「物流革新に向けた政策パッケージ」6に基づいた規制措置に対応する「自主行動計画」7を策定しました。

各業界は2024年の問題に対処するため、「物流革新に向けた政策パッケージ」の24項目のうち、12項目に対応する具体的な措置を実施することに焦点を当てています。2024年の問題が業界に影響を与える主な原因は、運転手の労働時間の減少です。そのため、商慣行の見直しとして各業界は荷待ち時間や荷役時間を短縮する対策の導入に重点的に取り組み、トラックドライバーの適切な休息と労働時間を確保するために時間を調整しています。例えば、納品時間を確保するため、納品リードタイムの冗長化、高速道路の利用や混雑時を避けた出荷・納品等様々な方法を推進することとしています。多くの業界では、多重下請構造を改革し、荷主・元請の監視を強化するために、連続的かつ公正なシステムを構築することに取り組んでいます。運賃と料金を別建てとした標準的な運賃の普及が一つの例です。また、現在、「物流総合効率化法(物効法)」は「流通業務総合効率化法」に変更され、発荷主は第一種荷主、着荷主は第二種荷主となります。政令によって定められる一定以上の重量の貨物を取り扱う荷主は特定荷主として指定されています。特定荷主には、物流統括管理者の選任などが義務付けられています。(表4)

表4:自主行動計画で商慣行の見直しに関する施策
表4:自主行動計画で商慣行の見直しに関する施策
出所:内閣官房「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」より筆者作成

更に、物流の効率化に寄与する輸送のインフラの構築と改善に関する対策も実施されています。具体的には、既存の設備やシステム、機材などへの投資を促進し、輸送管理プロセスに自動化を導入することが検討されています。また、巡回集荷や中継輸送などによる物流ネットワーク形成支援なども謳われています。これらの取り組みにあたっては、パレット(1,100mm x 1,100mmなどの平面サイズ)やコンテナを効果的に活用する物流標準化の取り組みが必要となります。これらの行動は、問題の改善に向けて大きな役割を果たすものです。(表5)

表5:自主行動計画での物流の効率化に関する施策
表5:自主行動計画での物流の効率化に関する施策
出所:内閣官房「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」より筆者作成

各業界は、将来の課題に対する更なる革新を目指し、多くの議論が行われ、行動計画をより一層充実させるために努力する予定です。貨物輸送の特徴に応じて、独自の取り組みを紹介しています。(表6)

表6:自主行動計画での荷主・消費者の行動変容に関する施策
表6:自主行動計画での荷主・消費者の行動変容に関する施策
出所:内閣官房「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」より筆者作成

最も重要な自主行動計画の目標

今回、筆者は内閣官房ホームページに掲載された27業界884団体・協会が公表した自主行動計画の内容を定量的に分析しました。その結果が図1になります。

図1:自主行動計画で謳われた取り組み内容
図1:自主行動計画で謳われた取り組み内容
出所:内閣官房「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」より筆者作成

「荷待ち時間・荷役作業などにかかる時間の把握」と「荷待ち時間・荷役作業など時間2時間以内ルール」という2つの行動は、約80~90%の団体・協会の自主行動計画に盛り込まれています(図1:1、2項目)。発荷主と着荷主における最大の関心事は、短期的には荷待ち時間・荷役時間などの把握にあると考えられます。また、荷待ち時間や荷役時間を2時間以内に抑えるか、既に2時間以内に達している場合、目標時間を1時間以内に設定し、さらなる時間短縮のための取り組みを行うことが示されています。荷待ち時間・荷役時間の把握ののちは、具体的な改善活動に入っていくことが見込まれます。

終わりに

2024年問題を解決するため、各業界は政府の「物流革新のための政策パッケージ」に基づき、「自主行動計画」を実施しました。しかし、実施されたのは12項目に過ぎず、残りの12項目については具体的な行動が計画されていませんでした。各業界は引き続き現状を観察し、さらなる議論を重ね、持続的な行動と改善を図る必要があります。更に、2024年問題に対処するためには、短期的には荷待ち時間や荷役作業時間の把握と短縮が重要ですが、中長期的には物流分野での労働力不足は恒常的に継続することが見込まれます。この課題に対しては労働力不足を直接的に補填する施策と、技術革新により物的生産性を向上する施策を導入することが有効だと考えられます。前者については、2027年に実施される「育成就労制度」により外国人労働者を活用することが有効な手段の一つと考えられます。後者に対しては、物流サービスの自動化、DX化を推進することが不可欠だと思います。

これらの施策は、従来とは異なる挑戦となり実際の効果が見えるまで時間がかかります。例えば、外国人労働力を雇用する対策については、2024年4月に日本政府が特定技能制度の対象となる業界に自動車運送業を追加することについて閣議を行いました9。自動車運送業界にはトラック運送業、タクシー運送業及びバス運送業が含まれます10。トラックの運送は集貨先や納品先において日本語でのコミュニケーションが必要となること、安全規制や貨物取扱に関する専門知識が求められることから、日本人労働力を採用する際とは異なる教育機会が必要とされます。一方で、特定技能に移行する外国人労働者は技能実習生制度の対象者が多いです。彼らが従事していた労働環境では日本語での複雑なコミュニケーション能力を必要としないため、転職するときに困難に直面する恐れがあります。一方で、日本語能力を備えた外国人労働者は特定技能制度の対象業界でなく、より専門性や高度性を求める業界への就業を指向する可能性が高いですが、その際は高待遇が必要となります。筆者としては自動車運送業界に移行する技能実習生に向け、政府より安価な教育プログラムを整備する等の対策が必要であると考えます。

(この記事は、2024年6月3日時点の状況をもとに書かれました。)

参考文献

国土交通省.「物流の2024年問題について」(閲覧日2024年4月15日)
内閣官房.「物流革新に向けた政策パッケージのポイント」(閲覧日2024年4月15日)
内閣官房.「自主行動計画」(閲覧日2024年4月15日)
内閣官房.「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議物流革新に向けた政策パッケージについて」(閲覧日2024年4月15日)
法務署「「自動車運送業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」に係る 運用要領」(閲覧日2024年5月13日)
NHK「「特定技能」自動車運送業など4分野追加を閣議決定」(閲覧日2024年5月7日)
NX総合研究所(2024)『令和版 物流ガイドブック』株式会社NX総合研究所、p.33-34


  1. 国土交通省.「物流の2024年問題について」(閲覧日2024年4月15日)
  2. 国土交通省.「物流の2024年問題について」(閲覧日2024年4月15日)
  3. NX総合研究所(2024)『令和版 物流ガイドブック』株式会社NX総合研究所、p.33-34
  4. 国土交通省.「物流の2024年問題について」(閲覧日2024年4月15日
  5. 内閣官房.「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議物流革新に向けた政策パッケージについて」(閲覧日2024年4月15日
  6. 内閣官房.「物流革新に向けた政策パッケージのポイント」(閲覧日2024年4月15日)
  7. 内閣官房.「自主行動計画」(閲覧日2024年4月15日)
  8. 27業界:①自動車、②自転車、③素形材、④機械製造業、⑤窯業・土石製品産業、⑥繊維、⑦電機・情報通信機器、⑧流通業(スーパー、コンビニ、ドラッグストア等小売業)、⑨建材・住宅設備業、⑩紙・紙加工業、⑪たばこ・塩、⑫金属産業、⑬化学産業、⑭建設業、⑮商社、⑯農業、⑰食品製造業、⑱食品卸売業、⑲トラック運送業、⑳倉庫業、㉑トラックターミナル業、㉒鉄道業、㉓航空運送業、㉔海運業、㉕港湾運送業、㉖利用運送業、㉗郵便業
  9. NHK「「特定技能」自動車運送業など4分野追加を閣議決定」(閲覧日2024年5月7日)
  10. 法務署「「自動車運送業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」に係る 運用要領」(閲覧日2024年5月13日)

この記事の著者

◆出身地:ハノイ、ベトナム ◆血液型:B型 ◆趣味: カフェ巡り、ヨガ、読書 
一橋大学 国際・公共政策大学院(IPP)修士2年生
◆研究テーマ:「技能実習生制度の廃止:ベトナムの不法滞在者を減少させるための良い対策?」
私は、ハノイ大学の日本語学部に在籍していた頃、多くの課外活動に参加し、国際組織のボランティアも経験しました。これにより、外国の友人とたくさん交流する機会があり、異文化や経済危機、グローバルな安全保障など、世界の問題について深く理解することができました。そのため、一橋大学の国際・公共政策大学院に進学し、ベトナムの不法残留者の状況について研究することにしました。研究に興味を持ち、日本の経済課題についてより学びたいと思い、NX総合研究所でインターンのポジションに応募しました。どんな国でも物流は経済の中核だと考えており、学校で習得した経済政治の理論を応用し、日本および世界の物流業界の全体像を把握したいと思っています。

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