【Logistics Report】ロジスティクス部門よ、イノベーターたれ!!
ロジスティクスは重要な経営資源の一つであり、ロジスティクスの巧拙が会社の業績を大きく左右すると考える経営者も多いことでしょう。現にトヨタやセブン-イレブン、アマゾンといった経営効率の高い企業は、ロジスティクスのレベルも高いことが従来から指摘されています。また、ロジスティクスのレベルが高い企業は、①在庫回転日数、②過去5年間の平均増収率、③一株当たりのキャッシュフロー、④ROAといった経営指標の数値が高いことを統計的に示した研究もあります。このようにロジスティクスの重要性は認識されていますが、企業内でロジスティクス部門の位置付けが、今一つパッとしない“日陰的な存在”と感じるのは、筆者だけでしょうか。
下表は米調査会社のガートナー社が毎年発表している「サプライチェーン Top25」の2016年版です。
表:The Gartner Supply Chain Top 25 for 2016
出所:LOGI-Biz 2016,8 pp46-49
欧米企業は、CLO(Chief Logistics Officer:最高ロジスティクス管理責任者)のもと、多様なオペレーションに先進的な解析技術を活用することで、卓越したサプライチェーンを構築し、優れた業績を収めています。
一方で残念ながら、日系企業は、トヨタ自動車の37位が最上位となっています。わが国ではロジスティクスの重要性は認識されつつも、「企業内におけるロジスティクス部門の戦略的位置付けは低い」と言わざるを得ない状況です。それでは以下、筆者なりにその理由を考察していきたいと思います。
第一にロジスティクスとは名ばかりで、輸配送、保管、荷役、包装、流通加工などの物流機能の実務とその管理を担う物流部門の名称を、単に変えただけの企業が多いのが実情です。ロジスティクスは、単なる物流の延長線上にあるものではないことを理解する必要があります。
第二にロジスティクスに関する専門知識や理論をしっかりと学んだ人材が、企業内に少ないことも、要因の一つと言えるでしょう。ロジスティクスの範囲は原材料の調達から製品の回収・廃棄までサプライチェーン全体に及びます。自社内の経験の蓄積や、片手間の対応で出来るものではありません。ロジスティクスの専門スキルを持つ人材を、積極的に育成する必要があります。
第三にロジスティクスのパフォーマンスを、物流コストという限られた側面でのみ評価している企業が、まだまだ多いように感じます。これではコスト・センターとしての位置付けになりますので、「言われたことを正確に、より安く」という思考に陥りやすく、従来の物流のレベルを抜け出すことはできません。ロジスティクスのパフォーマンスが経営にどの程度貢献しているかを、定量的に評価する仕組みが必要でしょう。
人手不足、グローバル化、オムニチャネル対応など、ロジスティクスを取り巻く経営環境は年々厳しさを増しています。ロジスティクスを単なる物流の延長上のものとしては捉えず、自社にとってロジスティクスとは何なのかを明確に定義したうえで、優れた人材を積極的に配置しなければ、生き残りは厳しいでしょう。
また今後、複雑化するロジスティクス分野の諸課題を解決するには、IoTやAIなどのICT(Information and Communication Technology)の積極的な利活用が必須になります。
このような状況のなか、ロジスティクス部門の役割が大きく変わろうとしています。複雑な事象を科学的に捉え、新しい知見を得るだけではなく、それを駆使した企画力と実践力、実際に行動を起こす力、つまり変革を推進する「イノベーター」としての機能が、今ロジスティクス部門に求められている重要な役割です。経営陣も、自社のロジスティクス部門の「イノベーター化」が差別化戦略の大きな柱になることを理解するべきではないでしょうか。