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物流センターの新規稼働(立ち上げ)で大切なこと

物流センターの新規稼働(立ち上げ)で大切なこと
(*ChatGPT DALL-E3により生成)

はじめに

私は前職でIT部門に所属していた時期に、お客様対応の部署でWMS(倉庫管理システム)の構築支援に長期間携わってきました。ITの立場で多くの物流センターの立ち上げ案件にも携わることができ、また、幾多の失敗も経験したので、俯瞰的に見た私の経験から大切だと思うことを伝えたいと思いペンを取りました。

物流センター業務で最も大切なこと

本題に入る前に、物流センターの業務で最も大切なことは何か?について記載します。
ChatGPTに聞くと、以下のように回答してくれます。

『物流センターの業務で最も大切なことは効率的な物流プロセスの確立です。効率的な物流プロセスには以下の要素が含まれます。

1.在庫管理: 適切な在庫レベルを維持し、需要に応じて必要な商品を迅速に供給すること が重要です。在庫の正確な管理と予測は、顧客満足度を高め、コストを削減するために不可欠です。
2.輸送管理: 輸送手段やルートの最適化は、効率的な物流プロセスの鍵です。適切な輸送手段を選択し、効率的なルートを設計することで、輸送時間とコストを最小限に抑えることができます。
3.品質管理: 商品の品質管理は、顧客満足度を高めるために重要です。正確な品質管理手順を確立し、商品の損傷や欠陥を最小限に抑えることが求められます。
4.データ管理: 正確なデータ管理は、物流プロセスの可視化と改善に不可欠です。在庫、輸送、品質などのデータを収集し、分析することで、問題の特定や改善策の立案が可能になります。』

効率的な物流プロセスは大切であり、それぞれは大切な管理項目ですが、私はこれまでの経験から最も大切なことは、「お客様の指示通りに出荷できること」だと思います。そんなことは当たり前のことだとお叱りを受けそうですが、これを大前提に物流センターは成り立っていると思います。ChatGPTの回答は、この目標を達成するための大切な項目でもあります。

指示通りに出荷し、指定通りに納品できなければ、つまり、物流センターへ委託しているお客様(A)の商品を購入するお客様(B)へ届けることができなければ、そのお客様(B)は他のお客様(C)の商品を購入することになるかもしれません。お客様(A)は売上が減ってしまい、他の物流業者へ物流センター業務を委託し直すかもしれません。
事実、WMSの障害によりお客様(A)から出荷が一部できなかったため、逸失利益の損害賠償請求を受けたことも何回かありました。

最も大切な「お客様の指示通りに出荷できる」ようにするために、倉庫の中を効率的に運営して、配送の締め切り時間までに商品を出荷できるかが重要となってきます。いざという時、WMSが稼働しなかった時に、どうやって出荷するかなどのBCPもきちんと策定しておかないと指示通りの出荷ができなくなります。
物流センターの運営はバーコード(あるいは2次元シンボル)での商品管理が大前提で、これがあるとないとでは、効率的な作業や品質の担保に大きな差が出てきます。商品のみならずシリアル番号、LOT、ExpireDateなどがバーコード化されているとWMSでかなり効率的な運用ができます。WMSの障害はバーコード管理を行っている物流センターでは大きなリスクです。

自動化機器を導入する場合は、機器が止まることを想定して、例えば出荷頻度が高い商品を手作業でピッキング出来るように別エリアを設定するなどの倉庫設計にしておかないといざという時に出荷できなくなります。システムの稼働率は100%ではありません。それを大きなリスクと捉え、どう「お客様の指示通りに出荷できるか」を考えておく必要があります。

物流センターの立ち上げで重要なこと

それでは、本題に入ります。
物流センターを新規に稼働するに当たって、これまでのうまくいかなかった事例や自らの経験、先輩諸氏から学んだ大切なことを記載します。

物流センターの立ち上げで重要なこと
(*ChatGPT DALL-E3により生成)

1.プロジェクトリーダーの実行力(最後までやりきる力と共有力)

物流センターを立ち上げる際には、プロジェクト体制を組みます。全体を統括するプロジェクトリーダー、各サブプロジェクトのリーダー(倉庫設計、マテハン設計、WMS設計、現場運用設計など)を決め、いつまでに誰が何をするのかを決め、それを定期的に共有します。

稼働がうまくいかなかった事例を見ると、プロジェクトリーダーが全体を統括できていない、どのサブプロジェクトに遅延があるのかなど、関係者間で共有ができていないケースが多く見受けられます。また、プロジェクトリーダーは、専任で対応しないとうまくいかないケースが多いと思います。
プロジェクトリーダーは、俯瞰的に全体を常に把握し、問題があれば適切な対処をしていかないと遅延に繋がり、結果的に「出荷ができない」状態に陥ります。縦割りのプロジェクトで関係者間の共有がないと必ずうまくいきません。「そこに関して私はよくわかりません」や「誰かがやってくれるだろう」は通用しません。そして、リーダーは最後までやりきる力が最も大切だと思います。

プロジェクトリーダーの実行力(最後までやりきる力と共有力)
(*ChatGPT DALL-E3により生成)

プロジェクトリーダーに求められる役割は大きいので、いきなり経験したことがない人を充ててもうまくいきません。物流センター業務を経験している人が望ましいですが、経験がないなら、経験者からサポートを受けながら対応していかなければなりません。

2.過去のうまくいかなかった事例に学ぶ

過去のうまくいかなかった事例に学ぶ
(*ChatGPT DALL-E3により生成)

物流センターの稼働はうまくいかないケースも多々あります。お客様の商品がどこのロケーションにあるのかわからずに宝探しのように関係者で商品を探し回り、何週間もお客様の指示通りに出荷ができない、また、業務要件が曖昧だったためWMSの機能実装が間に合あわず、出荷指示を出せずに出荷が遅延したりということも何回かありました。

結局は、統括するリーダーが不在で関係者間の共有ができていなく全体を把握する人が誰もいなかったため、見切り発車でセンター稼働をスタートしてしまったことが一つの大きな原因です。極端な事例のように思えますが、プロジェクトの立ち上げ時に役割分担を明確にし、いつまでに誰が何を行うのかなど、役割と進捗を共有しないと確実に起こり得る事象です。

WMSの構築も外部ベンダーに任せっきりにして進捗状況、成果物を適宜確認していかないととんでもないことになります。
各々のサブプロジェクトで計画を立て実行していたとしても、共有がなされないことにより、致命的なことが起きている可能性もあるので、定期的に共有することが最も大切です。

うまくいった事例は伝わりますが、そうでない事例は伝わりません。うまくいかなかった事例には対処すべきヒントがたくさん隠されています。

3.お客様要件の早期把握・確定

お客様要件の早期把握・確定
(*ChatGPT DALL-E3により生成)

例えば、注文住宅を建てる際に建築業者から見ると、お客様がどれくらいの費用でどんな間取りで家の中の導線をどうしたいのか、南向きの部屋は窓を大きくしたいなどの要件を詳しく聞かないと設計はできません。
物流センターの新規稼働も同様で、お客様独自の作法(例えば商品入荷時の品質検査、物流センター内で医療機器のように製造作業を行うなど)があります。そこを正確に把握して作業フローに落とし込み運用設計を行い、システム要件をまとめる必要がありますが、これが最も難しい作業になります。
物流センターを移行する場合、お客様が独自で倉庫運営をされていれば詳細を把握していると思いますが、外部へ委託している場合は、詳細まで把握しておらず、委託業者に運用を開示してもらう必要があります。しかしながら、これはかなり委託業者から抵抗されます。

どのように物流センターを設計していくのか、お客様からデータをいただき詳細な分析が必要になります。保管効率を高めるための3wayフォークリフトの導入検討、ピッキング導線を考慮したピッキングエリアの設計(固定ロケ・フリロケ、ピッキング間口の大きさ、通路幅など)、ダブルトランザクションの採否、検品のタイミング(出荷時のみ?)、出荷指示の締め時間などを指定時間までに出荷できることを念頭に、また、今後の物流量の拡大も見越して決定していくことが重要です。物流センターで働く人の安全も考えた倉庫設計も大切です。

例えば、個人のお客様向けの多頻度少量出荷の場合は、かなり効率的な運営ができる倉庫設計を行わないと「指示通りに出荷できない」羽目に陥ります。保管効率を高め、ピッキングエリアを狭くして効率よくピッキングし、かつ検品速度を速め、送り状や納品書を効率良く出力できないと指定通りに出荷できなくなります。

先輩諸氏からは、物流センターの立ち上げでソフトランディングはあり得ないと教わってきました。この意味は、取り敢えず何とか出荷できるような倉庫設計を行えば良いのではなく、初めにきっちりと要件を確定して倉庫設計を行わないと、後で簡単にやり直しが利かなくなるということを示しています。注文住宅の建築とまったく同じです。
お客様や関係者間で必ず齟齬は発生します。それを最少化していく努力が大切です。

ITの立場から記載すると、関係者間で要件の把握・確定・共有を行いながら業務フローを現場責任者が作成し、それを元にWMSの要件をIT担当者が決めていきます。この業務フローがないとシステムの機能を確定できません。業務フローが確定できない⇒システムの要件が決まらない⇒プログラミングができない⇒稼働ができないという事態に繋がります。IT担当者は、ほぼ全員同じことを言います。「要件定義が最も大切だ。」と。
それくらい関係者間で共有しながら要件を早めに確定させないとWMSを利用した物流センターは稼働できない、つまり、お客様の指示通りに出荷できません。
WMSの標準機能だけでシステム構築を最小限にして運用ができれば良いのですが、お客様、業態により独自の作法があるので、改修が必要となるケースが多いと思います。

最後に

物流センターの立ち上げで大切なことは記載した通りですが、お客様を守りながら継続してセンターを利用していただくことも大切です。
私が20年前に担当したお客様は、現在も継続して物流センターに業務を委託していただいています。これには営業や現場の方々のかなりの労力を必要とします。現場の自主的な倉庫内の改善作業、効率化、コスト削減などをお客様と共有しながら実施していくこと、お客様の要求にできる範囲で応えていきながら、お客様と良好な関係を保つことが重要です。これができない物流センターからはお客様が離れていきます。
さらにお客様へ物流センターだけではなく、サプライチェーン全体の効率化の取り組みを継続して提案・実施していくとお客様ともWin-Winの関係が築けます。

ここに記載したことは、書くことは簡単ですが、実行することは容易ではありません。しかしながら記載した内容を意識して行動するだけでも新規稼働や倉庫運営は違ってくると確信しています。

(この記事は、2024年6月7日時点の状況をもとに書かれました。)

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