はじめに
物流の2024年問題では、日本の物流従事者の労働時間の制限が始まり、様々な変革を求められています。先進国では自動化等を進める動きも活発ですが、発展途上国においてはどうでしょうか。日本では人口減少が続いていて、歯止めがかからない状況で、このまま何もしなければ日本全体の労働力は落ちることが目に見えています。既にインバウンドや外国人労働者に頼る部分が大きく、多様性を認め合い、併せて自動化・省人化を取り入れていくことが必要です。一方で、人口が増えている国での物流従事者の働き方は日本と同じように変革の時なのか、これまでと変わらない流れなのか知りたいところです。今回は筆者が以前に4年間駐在していた、日系企業が数多く進出しているタイ王国の物流事情、特に運送(輸送)について述べたいと思います。
タイの移動手段について
日本の物流では効率性やコスト削減、環境への負荷軽減などの目的で、鉄道や水路を利用するなど輸送の切り替えを行うことでモーダルシフトに取組んでいますが、タイやその周辺の国々では輸送については鉄道網が発展していないことから、自動車に頼らざるを得ません。しかし、最近ではタイの中でも都心のバンコク周辺ではBTS(Bangkok Mass Transit System Public Company Limited)やMRT(Mass Rapid Transit)、SRT(State Railway of Thailand)など、発展が目まぐるしく、人が移動するには十分な交通網が敷かれようとしていますので、まずは人の移動手段について見て行きます。
出所)タイ国政府観光庁(2022年6月現在)
バンコクで生活する人たちはこの鉄道網を利用して目的地の最寄り駅まで行き、次の乗り物に乗り換えます。年中暑いのとスコールがある為、基本的に誰も長距離を歩きたがりません。筆者も休日は特にBTSに乗って、別の乗り物に乗り継ぐこともありましたが、私たち日本人を含む外国人駐在者は、出社や退社、顧客への訪問時には、安全面を考慮して専属運転手付きの乗用車を会社が用意している為、平日はこの便利な鉄道網を利用することが少ないです。
鉄道網以外の一般的な移動手段
1.タクシー:日本と違い規制も少なく、Uber TaxiやGrab Taxiなどをスマホで予約して利用する人も増加。かなり値段も安い為(初乗りが2013年の価格で35THB≒110円)毎日のように乗ります。
2.路線バス:冷房付きと冷房無しで値段が違います。子供料金が必要かどうかは運転手が決めます。タイ人以外でこれに乗るのは、現地上級者と言っても過言ではありません。
写真①:左側ピンク色タクシー2台、右奥赤色路線バス(冷房無し)
3.トゥクトゥク:タイを代表する乗り物で、旅行者に人気ですが、現地に精通していないと料金を高めに取られる為、事前にタイ語での交渉が必要です。値段が高くても気にしない旅行者は記念に乗ると良いと思います。
写真②:右側緑色トゥクトゥク、左側黄色タクシー
4.シーロー:日本の軽自動車の荷台に座席を取り付けています。スーパーやお店の前に並んでいて、タイ人以外の現地駐在者も良く利用します。
写真③:シーロー(日本車の中古が多い)
5.モータサイ(バイクタクシー):オレンジ色のジャケットを着た運転手が車道で待機しているので、運転手に行先を告げて乗ります。バンコクは毎日激しく渋滞しているので、渋滞の中をかき分けて走り回ります。基本的に乗客はヘルメット無しで乗らざるを得ませんので、危ないですが値段も安く、急ぐために多くの人が利用します。2人乗りまでのはずですが、3人~5人程乗っている光景も目にします。
写真④:モータサイの運転手と乗客、右側黄色と緑色自動車はタクシー
写真⑤:モータサイではないが、恐らく親子4人乗り
その他にもロットゥー(小型バス)や運転手付きレンタカー、船、ゾウ(観光・洪水時)などありますが、皆さんの安全を第一に考慮して移動して頂ければと思います。
さて、人の移動のお話は上記の通りですが、次にタイでどのような種類の自動車が販売され、利用されているのか、見て行きたいと思います。
タイ国内自動車販売台数(セグメント別)
タイでは車検制度がなく、日本のように積載基準も明確に分かれていない為、タイ工業連盟では下記のように自動車を区分けしています。※余談ですが、その車検制度が無いために、企業の多くはメンテナンス付きリースを利用し、定期点検をするようにしています。
1:PASSENGER CAR(乗用車)
2:VAN & MICRO BUS(バンとマイクロバス)
3:ONE – TON PICK UP(1t ピックアップ車)
4:2 – 4 TONS TRUCK(2~4t トラック)
5:TRUCK OVER 4 TONS AND BUS(4t以上のトラックとバス)
6:FOUR WHEEL DRIVE(4輪駆動車)
7:LESS THAN ONE TON(1t以下)
8:OTHER SALES (P/U1.5TONs)(その他1.5t ピックアップ車)
出所)タイ工業連盟(FIT)が公表している数字を元に筆者が作成
上記の表から、平均して毎年90万台程売れていますが、中でも乗用車と1tピックアップ車が大半を占めていることが分かります。乗用車は自家用車や社有車、タクシーなどとして利用されますが、1tピックアップ車が運送(輸送)に重要な役割を果たしています。またそれと同時に、この車が毎年40万台販売されて、タイの経済を支えていることも事実です。2011年に起きた大洪水により、自動車メーカーやその部品メーカーも大きな損害を受け、多くの自動車が廃車となりました。その反動で2012年~2013年は販売台数を大きく伸ばし、タイの経済は回復を見せましたが、2014年のデモ、クーデター、戒厳令等で再度落ち込み、2017年までは平均的な販売台数で推移しました。2018年~2019年にかけて復調の兆しも見せましたが、2020年からのコロナで再度平均的な販売台数へ戻りました。このような推移で言えることは、毎年1tピックアップ車は社会情勢の影響をあまり受けず、洪水の多いタイであっても、多少の冠水などであれば車高が高く水にも耐えられることから、運送手段として需要があるということです。また、コロナのような未曾有の危機にあっても、販売台数が底堅く推移することから見ても、今後もタイにおいて、なくてはならない存在だということは間違いありません。
ここまで、タイでの移動手段と輸送する為の自動車販売について述べて来ましたが、次回はバンコク近郊の工業団地から見る物流事情と大型トラックについて述べたいと思います。
※写真は筆者撮影または知人提供です
(この記事は、2023年12月18日時点の状況をもとに書かれました。)