“海外”旅行は島国独自の言い方?
日本人にとっては「外国に行く」ことを、「海外に行く」と言ってもまったく違和感はありませんが、欧州大陸では海を越えなくとも陸続きで外国に行けます。今の日本では決して経験のできない陸路の国境越えは、飛行機や船でいつ超えたのかわからない越境と異なり、もっとリアルに「ここからは別の国」という感覚です。英国は島国なので、日本人と同様に海外旅行と外国旅行は同義ですが、陸の国境を有するドイツであれば、明確に言い分けします。
そんな欧州では思いもよらぬ場所に国境があります。例えばフランスのTourcoingとベルギーのMouscronという街のあたりでは、ところどころ道路と国境が重なっており、道路の向かい側は別の国となっています。オランダのBaarle-Nassauという都市にはBaarle-Hertogというベルギーの飛び地が21か所もあり、さらにそのベルギーの飛び地の中にオランダの飛び地があったりして、何故このようになってしまったのかよくわかりませんが、これが領有権争いの長い歴史の中で、一旦は折り合いがついた結果なのでしょう。現在でもまだ折り合いのつかないロシアとウクライナやアルメニアとアゼルバイジャンでは争いが続いています。Google MapsでBaarle-Nassauと入力すればどんなになっているかよくわかるので、是非ご覧になってください。
写真:街中の国境―NLオランダ、Bベルギー
陸路の国境超え
ドイツ・デュッセルドルフからオランダもしくはベルギーの国境まで、車で飛ばせば30分程度で行けました。2001年5月に私が着任した当時は、大戦後半世紀が過ぎているにもかかわらず、戦時の名残なのかドイツとオランダ国境の街VenloやRoermondは高速道路でつながっておらず、10㎞程度は一般道を走りました。もっと直截的な名残としては、ドイツ側から一般道でベルギーとの国境を越えたところに、戦車をブロックするコンクリート構造物が残っている場所もありました。他方EU統合の深化を示すものとして、国境には税関や出入国管理事務所の施設跡はあるものの、既に国境税関の手続きも出入国審査もなかったため国境越えに緊張感はありませんでした。外国旅行を意識させるのとして両替所が残っていた程度です。その後2010年代前半には、ドイツとオランダ間の高速道路はつながり、時間も20~30分程度短縮されました。
2001年当時、オランダではコーヒーが安いとか、ベルギーはチョコレートが美味しいとか言われていたので、国境の両替所でドイツ・マルクから、ダッチ・ギルダーやベルギー・フランに両替して、買い物に行ったことがあります。1999年から既にユーロが電子決済で使われていたようですが、小さなお店や露店では現金を使うこともあり現金が必要でした。為替レートはユーロ採用予定国の通貨とは固定されており差損はありませんでしたが、小銭は両替できないので行くたびに増えるし、両替手数料がかかったので、ユーロが流通すればさぞかし便利になるであろうと感じたことを思い出します。
EUの誕生による経済活動の変化
欧州の西側資本主義諸国は、1949年まず軍事同盟である北大西洋条約機構で防衛上の結束が図られました。その後1958年に欧州経済共同体(EEC)のちの欧州共同体(EC)が生まれ、これが欧州連合(EU)の母体となっています。EUの基本理念として、人、物、資本、サービスの加盟国間における自由な移動が掲げられており、物についてはEUに加盟する国々の間で移動の自由化が進みEU加盟国間における国境通関手続きが無くなりました。人についてはシェンゲン協定の締約国間で自由に移動できます。一旦シェンゲン協定締約国に入国すれば、他の協定国にどこでも行けるということです。さらに資本の移動の自由、つまり通貨統合は1992年に欧州経済共同体加盟国間で調印されたマーストリヒト条約で決められた事項の一つです。以下の表は、各国の条約批准ないしユーロの流通開始と参考までに各国GDPをまとめたものです。
出所:EU、OECD、NATO、SHENGENVISAINFO、外務省ホームページから、NX総研にて作成
EU理念の一つであった通貨統合は2002年1月に実施され、社会では様々な影響が生じました。以下は、ChatGPTに聞いたユーロ導入による効果です。
ユーロ導入によって引き起こされた良い効果:
1.通貨の安定性:ユーロ導入により、ユーロ圏内の国々は共通の通貨を使用することで通貨の安定性が向上しました。これにより、通貨の価値の急激な変動や通貨リスクが軽減されました。
2.貿易の促進:ユーロ圏内の国々は同じ通貨を使用するため、通貨の交換手数料や為替リスクがなくなり、貿易が促進されました。これにより、ユーロ圏内の国々間の取引が円滑に行われるようになりました。
3.価格の透明性:ユーロ導入により、ユーロ圏内の国々での価格が比較しやすくなりました。これにより、消費者は異なる国での商品やサービスの価格を簡単に比較することができ、競争が促進されました。
4.投資の増加:ユーロ圏内の国々での通貨の統一により、投資家はユーロ圏全体での投資機会を容易に見つけることができるようになりました。これにより、ユーロ圏内への投資が増加し、経済成長が促進されました。
ユーロ導入によって引き起こされた悪い効果:
1.経済格差の拡大:ユーロ圏内の国々は異なる経済力を持っており、ユーロ導入によって経済格差が拡大する可能性があります。経済力の強い国々は競争力を維持し、経済成長を達成する一方で、経済力の弱い国々は競争力を失い、経済的な困難に直面することがあります。
2.独自の金融政策の喪失:ユーロ圏内の国々は共通の通貨を使用するため、独自の金融政策を行うことができません。これにより、各国は自国の経済状況に合わせた金融政策を実施することができず、経済の変動に対する対応が制約される可能性があります。
3.主権の一部喪失:ユーロ導入により、ユーロ圏内の国々は一部の経済政策や通貨政策の決定権を欧州中央銀行に委ねる必要があります。これにより、国家の主権が一部喪失する可能性があります。
4.経済危機への脆弱性:ユーロ圏内の国々は経済的な危機に対して共通の通貨を使用しています。これにより、一国の経済危機が他の国々に波及する可能性があり、ユーロ圏全体の経済に対する脆弱性が高まることがあります。
上記の効果の他にビジネス面では、それまで国ごとに異なっていた価格や拡販キャンペーンを統制できるようになりました。また物流面では、各国ごとに在庫を置くため配送センターを分散して配置していたことから、複数の国を一つのマーケットと捉え、在庫を一か所にまとめ中央配送センターに統合する傾向が強まりました。
もちろん、各社の営業戦略により物流も異なり、分散型を選択される販売会社もあります。分散型と集約型、それらを組み合わせた複合型など自由度が高まり、物流センターの統廃合や規模の拡大や縮小など、2002年1月以降は欧州の物流に多くの変化が生じました。
後半編のブログ記事ではユーロ導入による物流事業者の変化についてお伝えしたいと思います。
(この記事は、2023年12月19日時点の状況をもとに書かれました。)