新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大に歯止めをかけるため、政府は4月7日、7都府県(東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、兵庫、福岡)に5月6日までの緊急事態宣言を発令し、さらに、4月16日に対象地域を全都道府県に拡大しました。緊急事態宣言の発令により、法的な裏付けの下、各都道府県の知事が外出自粛や営業休止を要請するなどして、人との接触を8割削減することで、感染の拡大を食い止める目的があります。
これにより、半ば強制的な在宅勤務の対応を余儀なくされている企業も多いことと思います。現場を持たない会社では、最低限、パソコンと携帯電話さえ自宅に持ち帰れば、在宅でも会社とほぼ同じ環境で仕事ができるため、ファイルサーバーのクラウド化やウェブ会議システムの導入など、環境さえ整えれば、在宅勤務は比較的運用しやすいと言えます。ウイルスに限らず、地震や台風などの自然災害による非常事態は突然やってくるため、平時からのBCP対策としてテレワーク勤務環境を整備しておくことが、事業の継続および従業員の命を守るために重要となります。
緊急事態宣言下における、在宅勤務を強いられる今回のようなケース(いわば「強制在宅勤務」)もテレワークの一種ではありますが、筆者に言わせれば、本来の「テレワーク」の姿ではありません。従って、今回の事態は、感染拡大防止のための外出制限だけではなく、働き方という観点でも「非常事態」であると言えるでしょう。
Keyword:テレワークとは
「テレワーク」とは、Tele(離れたところで)とWork(働く)をあわせた造語で、情報通信技術(ICT)を活用し、場所や時間を有効に活用できる柔軟な働き方のことを表します。テレワークの効果としては、雇用創出と労働力確保、オフィスコストの削減、優秀な社員の確保、ワーク・ライフ・バランスの実現、生産性の向上、環境負荷の軽減、事業継続性の確保(BCP)などが挙げられます。
出典)一般社団法人日本テレワーク協会
これまでのテレワーク推進の目的は、東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた交通混雑の緩和や、仕事の生産性の向上、またワーク・ライフ・バランスの改善への取り組みとしての意味合いが強かったように思います。それが、年初からの新型コロナウイルスの感染拡大により、緊急事態宣言の下、外出自粛が要請される中で、テレワークの一つの形態である「在宅勤務」をすることによって就業や事業を継続するという「非常事態」となり、テレワークの効果の一つである「事業継続性の確保(BCP)」の意味合いが強くなってきました。
Keyword:テレワークの3つの形態
就業場所による分類では、自宅で仕事を行う「在宅勤務」、出張時の移動中などに公共交通機関内やカフェ等で仕事を行う「モバイル勤務(モバイルワーク)」、共同のワークスペースなどを利用して仕事を行う「サテライトオフィス勤務」の3つの形態があります。
出典)一般社団法人日本テレワーク協会
物流企業や製造業の中でも、事務・管理職、あるいは営業職においては、仕事の仕方の工夫や、文書のデータ化、システムのクラウド化、ITツールの活用などにより、在宅勤務をはじめとするテレワークを比較的容易に導入しやすいと言えます。しかし、物流は人々の生活や命を守るライフラインであり、コロナ禍においても、食料品や医薬品、生活用品など、モノの管理・保管、荷役、流通加工、輸送が必要不可欠です。社会インフラを支える物流業には物流施設等の現業拠点で行う現場作業が伴うため、テレワークの導入の仕方には工夫が必要となります。そこで、本稿では、物流現場においては、コロナ禍だけでなく一般にどのようなテレワークが考えられるのかをご紹介します。
現場職(事務・管理)のテレワーク例
- ・現場職でも事務・管理系であれば、デスクワークなど本社社員と同じような業務もあるため、在宅勤務を含めたテレワークが一部可能であると考えられます。
- ・現場でなければできない業務があるため、事務・管理、情報システム、企画・開発職ほど容易にはテレワークは実施できない職場があると考えられますが、伝票処理や各種計算業務(運賃や燃費)など、在宅でも行える仕事を洗い出しましょう。
- ・個人情報や機密情報を含む業務の取扱いは、社内ルールに基づいて行いましょう。
- ・外出や出張がある場合は、モバイルワークやサテライトオフィスの利用の検討もしましょう。
- ・伝票処理、帳票作成
- ・予算・実績管理業務
- ・運賃や燃費等の計算業務
- ・申請・申告等の書類作成業務
- ・配車計画
- ・品質管理業務 など
※実際には、職場ごとの業務内容や遂行方法、情報セキュリティの考え方などにより、個別の判断が必要です。
出典)日本物流団体連合会「物流業におけるテレワークモデルプラン~導入ガイドライン~」
現場職(作業)のテレワーク例
- ・現場での作業が主となるため、テレワークの実施は難しいことが考えられますが、一部でもできるところから、できる人から始めましょう。(ただし、ドライバーは宿泊を伴う場合を除き、現状の制度では対面での点呼が原則必須であり、また、発荷主・着荷主間やセンター間で実際にモノを運ぶ仕事のため、基本的にはテレワークの実施は限定的となるでしょう。)
- ・例えば、作業員であれば、一部、直行直帰などのモバイルワークや営業所などを活用したサテライトオフィス勤務などにより、通勤時間や移動時間、それに伴う交通費や残業代の削減が可能となる可能性があります。
- ・タブレットやスマートフォンなどを活用し、現場の様子を事業所にいる管理職や同僚に報告・相談することも可能です。これにより、迅速な対応が可能になり、かつ、移動費の削減も期待できます。これも、現場職におけるテレワークの一つの形といえます。
- ・現場に近い職種ほど、事務・管理職のように一日単位でのテレワークは難しくなりますが、精算処理などの事務処理をまとめて、在宅で週に一回半日や数時間単位で行うことなどが考えられます。デスクワークなど、現場でなくても自宅等でできる作業の洗い出しや、仕事のやり方をできるところからでよいので、工夫しましょう。
- ・特にシフト制の場合や作業分担が明確で、自分がそこにいないことにより周囲に負担がかかるような場合は、どんな業務がテレワークで可能か、いつ可能なのか、職場の調整も含めて十分相談しましょう。
- ・個人情報や機密情報を含む業務の取扱いは、社内ルールに基づいて行います。
- ・営業所などを利用したサテライトオフィス勤務での作業や事務処理
- ・移動を伴う業務の場合は、直行直帰などのモバイルワーク
- ・タブレットやスマートフォンなどのIT機器の活用による、遠隔からのモバイルワーク
- ・精算処理などの事務処理をまとめて、在宅勤務や他営業所(サテライトオフィス)等で実施 など
※実際には、職場ごとの業務内容や遂行方法、情報セキュリティの考え方などにより、個別の判断が必要です。
出典)日本物流団体連合会「物流業におけるテレワークモデルプラン~導入ガイドライン~」に一部加筆
物流現場職で考えられるテレワークのまとめ
現場に近い職種ほど、事務職のように一日単位でのテレワークの実施は難しくなりますが、物流施設等の現業拠点で働く現場職社員には、精算処理などの事務処理や報告書など書類の作成といった事務作業のほか、タブレットやスマートフォンなどのIT機器・ツールを活用して、自宅にいながらリモートで部下に指示を出す/上長の指示を仰ぐモバイルワークなどが考えられます。
特にコロナ禍における現場作業職への対応としては、「三密」となる現場や事務所への出社は必要最小限の人数に限定し、交代勤務制として、必要な報告・相談はIT機器・ツールを活用して連絡を取る、業務報告書等の書類作成はノートパソコンやスマートフォンから自宅で行うなどすれば、自宅から現場へ直行直帰するなどして事務所やオフィスに立ち寄る必要性をなくし、他者との接触機会を減らすことが可能と考えられます。
- ・数時間から一日単位で、自宅で事務作業を行う(在宅勤務)
- ・自宅に近い営業所などを活用したサテライトオフィス勤務
- ・現場への直行直帰(モバイルワーク)
- ・タブレットやスマートフォン、ITツールを活用し、現場の様子を事業所にいる管理職や同僚に報告・相談(モバイルワーク)
まだテレワーク勤務制度を導入していない企業については、今回の「強制在宅勤務」(在宅勤務を強いられるケース)をテレワークの「トライアル期間」ととらえ、この度得られた課題や反省に対する改善を積み重ねることにより、BCP対策の一環としての働き方(ワークスタイル)や仕事の仕方の見直しが進むこと、また、物流業においてもテレワーク勤務環境の整備等がいっそう推進され、強いては業界内の労働力の確保に繋がることが、新型コロナウイルスによるレガシーの一つとなればと思います。
※2019年2月13日の記事「運輸業でテレワークは可能か?」も併せてご覧ください。
参考資料:一般社団法人 日本物流団体連合会「物流業におけるテレワークモデルプラン~導入ガイドライン~」(2018.6)