ダイバーシティと障がい者雇用
ダイバーシティ(diversity)とは、「人種・性別・嗜好・価値観・信仰などの違いを受け入れ、多様な人材が持つ可能性を発揮させようとする考え方」です 1。
経済産業省では、ダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しており、「多様な人材の活躍は、少子高齢化の中で人材を確保し、多様化する市場ニーズやリスクへの対応力を高める『ダイバーシティ経営』を推進する上で、日本経済の持続的成長にとって不可欠」であるとしています2。「多様な人材」には、性別、年齢、人種、国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などのほか、キャリアや経験、働き方などに関する多様性も含まれます。
また、「ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity & Inclusion)」という言葉も聞いたことがあるかもしれませんが、これは上記のような「個々の『違い』を受け入れ、認め合い、生かしていく」ことを意味しており3、「ダイバーシティ経営」に通じる考え方であるといえます。
本稿では、ダイバーシティの中でも障がい者についてみていきます4。
障がい者雇用のルール
障害者雇用促進法43条第1項では、「従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を『法定雇用率』以上にする義務がある」とされ、民間企業の法定雇用率は2.3%となっています5。従業員を43.5人以上雇用している事業主は、障がい者を1人以上雇用しなければなりません。
法定雇用率を未達成の場合はハローワークから行政指導が行われるとともに、常用労働者100人超の企業については、障害者雇用納付金が徴収されます。この納付金を元に、法定雇用率を達成している企業に対して、作業施設や福祉施設の設置等のための助成金や奨励金が支給されています。
現行2.3%である民間企業における障がい者雇用率は、2024年4月に2.5%、2026年7月に2.7%に段階的に引き上げられることが2023年1月に労働政策審議会にて決定されたため6、企業には今後更なる取組みが期待されます。
なお、雇用率の対象になる障がい者は、身体障がい者、知的障がい者、および精神障がい者であり、身体障がい者は身体障がい者手帳1~6級に該当する方、知的障がい者は児童相談所などで知的障がい者と判定された方、精神障がい者は精神障がい者保険福祉手帳の交付を受けている方となっています7。なお、種類・等級や条件によってカウント方法が異なります。
障がい者雇用の状況
障がい者の雇用状況については、毎年6月1日時点での状況が公表されており、2022年6月1日時点の雇用障がい者数は61万3,958.0人、実雇用率は2.25%と、雇用障がい者数、実雇用率ともに過去最高を更新しました8(図表1参照)。
雇用障がい者数の内訳は、身体障がい者が357,767.5人(対前年比0.4%減)、知的障がい者が146,426.0人(同4.1%増)、精神障がい者が109,764.5人(同11.9%増)であり、特に精神障がい者が10ポイント以上の伸び率となりました。
雇用障がい者数に占める構成比をみてみると、2022年は精神障がい者が17.9%、知的障がい者が23.8%、身体障がい者が58.3%となっています。身体障がい者の占める割合が最も高いものの、その割合は年々減少傾向にあり、逆に精神障がい者および知的障がい者の割合が上昇傾向にあるといえます(図表2参照)。
図表1 雇用障がい者数実雇用率の推移
出所:内閣府「令和4年版障害者白書」より筆者作成
図表2 雇用障がい者数構成比の推移
出所:内閣府「令和4年版障害者白書」より筆者作成
2021年の産業別の障がい者就職件数をみると、医療・福祉が35,888千人で最も多く、第2位以下を大きく引き離しています。次いで、製造業(12,270千人)、卸売業・小売業(10,743千人)、サービス業(10,432千人)、公務・その他(5,135千人)と続き、運輸業・郵便業は4,163千人で第6位となっています(図表3参照)。
運輸業・郵便業の内訳は、身体障がい者が1,137千人(27.3%)、知的障がい者が1,010千人(24.3%)、精神障がい者が1,634千人(39.3%)、その他の障がい者が382千人(9.2%)であり、精神障がい者の割合が約4割となっています。
この精神障がい者の割合(39.3%)は高いように見えますが、産業計では47.7%ですので、産業平均より低いことになります。逆に、運輸業・郵便業で平均よりも割合が高いのは、身体障がい者および知的障がい者であり、平均よりもそれぞれ5.7ポイント、3.5ポイント高くなっています。
図表3 産業別の障がい者就職件数(2021年)
出所:厚生労働省「令和3年度障害者職業紹介状況等」より筆者作成
図表4 産業別 障がい者就職件数の構成比(2021年)
出所:厚生労働省「令和3年度障害者職業紹介状況等」より筆者作成
障がい者とテレワーク(在宅勤務)
さて、厚生労働省では、「障害のあるなしに関わらず、誰もがその能力と適性に応じた雇用の場に就き、地域で自立した生活を送ることができるような社会の実現を目指し、障害のある人の雇用対策を総合的に推進」しています9。
そこで注目されているのが在宅勤務を始めとするテレワークであり、障害者雇用納付金制度でも在宅就業障害者特例調整金、在宅就業障害者特例報奨金が支給されるなど10、行政の後押しもあります。
テレワークとは、「情報通信技術(ICT)を活用した時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」であり11、固定勤務時間で事務所に出勤して働く従来の働き方よりも、体調やライフスタイル、生産性に合わせて時間や場所を柔軟に活用できる点で、障がいを持つ方々にとっても就業継続しやすい働き方であると考えられます。(テレワークに関しては、過去のブログ記事もご参照ください12。)
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、障がい者の在宅勤務は一般的な在宅勤務とは異なる配慮事項があり、企業が障がい者の在宅勤務を導入する際のプロセスとその特徴について、下記のとおりまとめています 。
例えば、定期的な通院や介護の必要がある場合は、日中の介護の時間の取扱い等を定める、疲労による体調悪化や長時間同じ姿勢をとることで発生しやすい褥瘡(じょくそう)など二次障がいの予防、障がいの状況に応じた機器の設定、外出が困難な場合は孤独感を持つことがあり精神面のサポートやコミュニケーション体制の確保が必要、などに留意が必要だとされています(図表5参照)。
図表5 障がい者の在宅勤務導入のプロセスと特徴
出所:独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構(現 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)「障害者の在宅勤務・在宅就業ケーススタディ-20の多様な働き方-」より筆者作成
障がい者雇用のための職場環境整備の例
また、障がい者の雇用にあたっては、職場環境の整備も必要です。Amazonの例では、多様かつインクルーシブな職場づくりを目指し、男女雇用機会均等法を順守している旨、また、「人種、出身国、性別、性的指向、障がい、年齢、その他の属性によって差別することなく、平等に採用選考の機会を提供」していることを謳ったうえで14、下記のようなサポート体制が整備されています15。
<上下肢障がいに対するサポート例>
・車椅子対応エレベーターの設置(勤務地による)
・車椅子対応トイレの設置(勤務地による)
・ハンズフリー電話機(ヘッドセット)の手配
・自家用車通勤応相談(勤務地による)
<聴覚障がいに対するサポート例>
・電話応対の必要のない業務への配置
・インスタントメッセージ機能搭載PCの完備
・筆談パッドの配布
<その他、障害の状況に応じたサポート例>
・残業制限
・時差出勤
・時間短縮勤務
・産業医による面談の実施
・障害者職業生活相談員有資格者によるフォローアップ面談の実施
出所:Amazonホームページ
おわりに
今回紹介させていただいたAmazonの例では、一人ひとりの経験に合わせて、適切な職場配置や職務の割り当てを行い、必要なサポートを提供していました。
障がいの有無に関わらず、各人が自分の能力を活かし、生き生きと働くことができる多様かつインクルーシブな職場、それを実現するための制度や設備等を整え、従業員が生き生きと働けることをサポートするという、そんな企業のあり方が求められているのではないでしょうか。
- 日本の人事部ホームページ
- 経済産業省ホームページ
- 日本の人事部ホームページ
- 一般には「障害者」「障碍者」「障がい者」という3つの表記が使われていますが、法律や引用を除き、本稿では「障がい者」という単語を用いることとします。
- 厚生労働省ホームページ
- 厚生労働省「令和5年度からの障害者雇用率の設定等について」
- 厚生労働省「障害者雇用のご案内~共に働くを当たり前に~」
- 厚生労働省プレスリリース「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」
- 厚生労働省ホームページ
- 厚生労働省「在宅就業障害者特例調整金・報奨金の算定の見直し」
- 厚生労働省ホームページ
- 運輸業でテレワークは可能か?
物流現場職で考えられるテレワークとは? - 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構(現 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)「障害者の在宅勤務・在宅就業ケーススタディ-20の多様な働き方-」
- Amazonホームページ
- Amazonホームページ