【Global Report】軌道に乗るか?インドの鉄道輸送の行方は
インドは日本の9倍相当の国土に約13億の人口を擁し、高い経済成長が期待されています。その一方で、道路や鉄道などの内陸輸送インフラは整備途上にあり、この物流インフラの問題をいかに解決するかが、経済成長のカギを握っています。その切り札として、貨物専用鉄道計画(DFC:Dedicated Freight Corridor)が、大きな注目を集めています。
DFC計画は、首都デリー近郊の貨物駅ダドリと、商都ムンバイ近郊に位置するインド最大のコンテナ港であるJNPT港とを結ぶ貨物専用鉄道(DFC西線)を建設するもので、総延長は約1500kmに及びます(注1)。このDFCは、編成の長さを従来の倍とし、かつダブルスタック・トレイン(コンテナ2段積み列車)とすることで、1編成当たりの輸送量を3~4倍に拡大、デリー~ムンバイ間の輸送所要日数も現状の3~4日から1~2日に短縮できると言われています。
デリー~ムンバイ間には現在も鉄道はありますが、旅客・貨物とも同じ線路を利用しているため、貨物列車は旅客ダイヤの合間に運行せざるを得ず、キャパシティが不足しています。そのため、日本のような運行ダイヤ編成が難しく、いつ発着するかが分からないといった問題を抱えています。また、海上コンテナの鉄道輸送でも、コンテナが一時保管されるコンテナヤードから貨物列車に搭載されるまでの作業効率の悪さから、コンテナが数日間滞留してしまい、リードタイムが長くなるといった問題があります。そこで、既存の線路と並行して走る貨物専用鉄道を新設し、効率的な鉄道輸送の実現を図る、というのがDFC計画になります。
ただし、課題も山積みです。現在ムンバイのコンテナターミナル周辺では、ゲート入場待ちのトレーラーによる混雑が大きな問題になっています。DFC開業後も当該地区の地形による制約から周辺の混雑緩和は見込みにくく、港湾内の作業効率化にも影響が残る懸念があります。また、デリー郊外で建設が進んでいるDFC貨物駅となるカトワズICD(注2)の立地も課題の一つです。カトワズICDは、既存の貨物駅ダドリより離れた場所にあり、デリー周辺の企業は、自社の工場からICDまでの配送距離が伸びてしまいます。そのため、仮に鉄道運賃が値下げされたとしても、端末のラストマイル輸送が伸びてしまうことで、トータルの運賃およびリードタイムは大きく変わらない可能性があります。加えて、インドはトラック運賃が極めて安く、オーナードライバーからは信じられないような低い運賃が出てくるのが実情です。当然彼らは鉄道運賃を意識した対抗レートを出してくることが予想され、DFCはコスト・リードタイムの両面でトラック輸送との競争にさらされることになります。
DFCの開通は2019年予定ともう少し先になりますが、同計画の実現がインド鉄道輸送の新たな歴史の1ページになることは間違いありません。しかしながら上述の通り、現状の価格&リードタイム面の品質が変わらなければ、鉄道は道路輸送との競争に敗れ、シェアを減らす可能性もあります。DFCの稼働に向けては、克服すべき多くの課題が山積みとなっており、引き続き注目していく必要があるでしょう。
注1:このほかに、パンジャブ州ルディアナと西ベンガル州ダンクニを結ぶ総長1840kmのDFC(東線)も計画されており、これを合わせてDFC計画と呼ばれる。
注2:Inland Container Depotの略で、内陸にあるコンテナ貨物駅のこと。
建設中のカトワズICD