国土交通白書の中に、「競争力のある経済社会の構築」という章があります。この中で「効率的な物流システムの構築のため」の施策として10年以上「3PL」がうたわれていましたが、2017年版からこの「3PL」という言葉が消えました。総合物流施策大綱でも同様です。
3PLは魔法使いではない
そもそも3PLのメリットは何だったのでしょうか? 一般的には「運営ノウハウがあって効率化ができるから安くて品質が高い」、「ボリュームディスカウントが効くから安い」とよく言われています。これまで自社で物流を行っていたけれど「高い料金を負担しているのではないか」「改善案が出てこない」「最新の物流動向の情報が入ってこない」などの悩みをすんなり解決してくれる、新しい手段と考えられていたのではないでしょうか。
国土交通白書に「3PL」という言葉が初めて登場した2004年版を見ると、荷主と納品先の間を情報システムにより一元管理することをうたい、これによる「物流の高品質化」を目指していたことが分かります。以降、国は「高度化・多様化した物流ニーズに応える3PL事業をより一層促進するため」、「物流事業者が3PL事業に進出しやすい環境の整備を行う」という表現で3PLを後押しする姿勢を見せてきました。そのような状況の中「3PLを使えば数々の問題が一発解決するのでは?」となる心情はよく分かるのですが、3PLも魔法使いではありません。自社の状況をしっかり把握した上で、利用する・しない、選定の仕方、付き合い方などを、大きな流れの中でじっくり考える必要があると思います。
図1:3PL黎明期の3PLビジネス概念図
出典:「国土交通白書(2004年)」
どのようなアウトソーシングの姿を目指すのか?
ところで3PLはどうやって料金を決めているのでしょうか? 基本的には、かかる費用に利益を乗せて料金とします。特別なことはしていません。かかる費用とは、人件費、設備代、家賃などです。基本的に自社でやるのと考え方は一緒です。比較的規模が小さい場合は、3PLが他業務と合わせて運営することで、スペースや作業員の融通が利いて単独でセンターを構えるより効率的になる場合はあります。また、定型のノウハウが完成しているものについては、同じ仕組みに乗せたり、コピーしたりできますから、パッケージ的に物流サービスが提供できるようになります。物流実務に加え、受注・決済業務まで守備範囲としてしまうECのフルフィルメントなどはこの好例でしょう。
しかし荷主の求める物流業務がそこまで定型化・一般化されていない場合、効率化を実施できるほどのノウハウの蓄積や規模が、その3PLに本当にあるか見極めが必要です。求められる要件を一つずつ確認してオーダーメイドで作業設計をするなら、今までの運営とさほど変わりません。費用面も、3PLだから、という理由で安価な労働力やトラックを簡単に調達できる時代でもなくなりました。安く買いたたくことは、逆にバッシングの対象になったりもします。
結局、餅は餅屋と思っていたけど、自分用のオーダーメイドの餅なら自分で作るのも変わらない、むしろ、好みを知っている自分で作った方が旨くて安い、などということもあり得えるということは知っておいたほうがよいでしょう。その場合、継続的改善を引き出すような取り組みは別途必要となりますが、それは3PLでも同じです。日々の運営でギリギリの料金しか支払っていないと分析まで手が回りません。委託する前に継続的な改善の取り決めをしておくことが大切です。そのようなことも踏まえ、どのようなアウトソーシングの姿を目指すのかを決定する必要があるかと思います。
さて、それではこの先にはどんな未来が待っているのでしょうか?
「3PL推進」から「業界全体での標準化、データ連携」へシフト
2017年版以降の国土交通白書においては、3PL推進の代わりに「関係者が連携した物流の総合化・効率化に関する幅広い取組みを支援する」として、「トラック予約受付システム」、「物流事業者や荷主等の連携による物量の平準化」、「荷姿やデータ使用の標準化」、「新技術(IoT、BD、AI等)の活用」などの言葉が並びます。業界全体での標準化、データ連携を志向する内容の記述に替わっています。
これは、2000年代前半にイメージした、荷主と納品先の間の物流に関する「情報システムによる一元管理」は、すでに普通のことになっており、次のステージに向けては、「3PL」というビジネスアウトソーシングの仕組みを広めさえすれば、物流全体が高度化し効率的になっていくだろう、という発想では対応できないということを意味していると言えると思います。今後、出現するサプライチェーン全体に渡る高度に繋がった物流情報を業界全体でどう利用していくか、という視点にシフトしているように読み取れます。これは物流業者だけでなくサプライチェーンに関わる全主体が使うプラットフォームという発想でしょうから、うまく使えばだれでも効率的な物流システムに参加できるというイメージでしょう。荷主がこれを活用するには、ビジネス要件、情報をどこでどう繋げ、どこまでアウトソーシングして、どこまで自社で行うのか、をはっきりさせる必要が生じてくるのでしょう。その上でどんな機能を持った業者を使うのか検討することになります。
既存3PLはどこに向かうのか?
また、そうした中で、3PL側も変化していくのではないでしょうか。既存3PLはどこに向かうのか。上下流の情報を押さえて全てを繋げる仕組みを構築するのか、標準サービスを磨き上げるのか、サプライチェーンの一部分・中間情報を受けて返すだけなのか。そのことが、社会インフラ的な物流プラットフォーマーになるのか、ECフルフィルメントのような標準サービスプロバイダーになるのか、単純な倉庫作業会社になるのかの分かれ道になると思います。これからどのような業態変化があるのか。その変化にも注目していきたいところです。