3社目にご紹介するのは日本企業、福岡を中心に小売店を展開しているトライアルカンパニーです。同社は日本国内のリテールテックの世界では超有名会社の模様で、既に同社の取り組みについて書籍が2冊出ています。
また同社のサイトには「戦略紹介動画」というページがあり、同社の「リテールAI流通情報革命」への取り組みや、今年2月にオープンした実験店「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店(福岡市東区)」の様子も見られるようになっています。
実は、筆者は福岡出身なのですが同社のスーパーセンターのことを知りませんでした(すみません…)。地元に残っている友人複数に聞いてみたところ「安い」「人気があって混んでいる」「生鮮食料品も取り扱っていて、ディスカウントストアというよりスーパーみたい」などと教えてくれました。しかも同社の会長・永田久男氏は単なる小売りの経営者ではなく、自身でプログラムを書けるIT経営者でもあるそうです。「リテールAIで日本の流通・小売業のあり方を変える」と前述の書籍やウェブサイトで提唱しています。ここで「上記の書籍とウェブを読んで頂ければ全部分かります」と筆を置きたいところですが、一応同社のリテールテックの状況がどのような感じなのか説明しておきましょう。
「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」には700台ものカメラを設置して商品や来客者を画像で認識しています。店舗の大きさは数値が見当たらないのですが、写真や動画で見る限り一般的なスーパーセンターの店舗です。つまりスタンダード・マーケットとは桁違い、Amazon Goストアと比べても大きな面積をカバーしていることになります。ユニークなのはカメラがスマートフォンのモジュールを利用していることでしょうか。安価で高機能のものを大量に調達でき、良く考えたな~と思いました。ある商品を取った、戻した、カップ麺コーナーの前でウロウロしてどれにするか悩んだ、悩んだけど結局買わなかった、などを記録し、ヒートマップで表示するそうです。この辺の詳細の認識アルゴリズムがコア部分です。(認識アルゴリズムがコアであることは、トライアルカンパニーに限らず、サインポストやスタンダード・コグニションでも同じです。)
同店の場合、実際の店舗であることもあり、支払い(チェックアウト)はAmazon Goやスタンダード・マーケットと違い「そのまま出ていく」方式をとっていません。Remmoというベンチャー企業と共同開発したスマートレジカートを準備しており、そのカートにはスキャナが付いています。来客者は入店時、カートを拾ったら「事前に購入してあるプリペイドカード」をカートのスキャナで読み込みます。その後買い物をしながら、購入すると決めたもののバーコードも、来客者自身がスキャンします。プリペイドカードなので精算自体はほぼ自動になっていますが、店舗を出る際に店員(人間)によるチェックがあるとのことです。
まず筆者が感じたのは、支払方法がプリペイドカードだけというのは非常に勿体ないです(同店には通常の有人レジもあります)。またスマートレジカートで来客者自身にスキャンさせる所も“イケてない”と思うのですが、どうもトライアルカンパニーは「無人化」や「チェックアウト(レジ)無し」にこだわっている訳ではないようです。店舗内には大型のディスプレーが、また各スマートレジカートには液晶画面がついており、これらを通じて広告、クーポン提供、また「おススメ」をすることで顧客側の“体験”を楽しませ、「もっと買ってもらう」効果(=店側の売上拡大)の方を重視しているようです。いわゆる、来客者の購買行動をデジタル化して的確な広告をタイムリーに打ったりするための“リテールテック”ですが、これに関しては【5】で書きます。
「チェックアウト(レジ)無し」への対応、もっというと感覚は、アメリカ勢(アマゾン、スタンダード・コグニション)と日本勢(サインポスト、トライアルカンパニー)に明確な差がありますね。筆者もアメリカに住んでいたことがありますが、スーパーのレジなどは効率が悪いのかいつも長蛇の列で、ほんと時間の無駄なんですよね。なのでアメリカ勢はそれにこだわるのだと思います。列に並ぶのが大嫌いな筆者としては、日本勢の皆様にも「そのまま出ていく」方式をできるだけ早く採用して頂きたいと切望します(笑)
しかし最初の店舗でそこそこのサイズで実験を開始し、Amazon Goストアの一般公開(1月)からすぐ(2月)にオープンするとは、かなりの技術蓄積とノウハウがある証拠だと思います。筆者の次回の福岡帰省時には、実家からアイランドシティまで車を飛ばして視察に行くようにいたします。