【Logistics Report】地味に凄い!倉庫が「偉大なる空箱」である理由
国内なら六本木ヒルズや丸ビル、海外なら米国のエンパイアステートビルや最近話題のトランプタワーなど、世の中にはわざわざ見物人が来るような有名建築物があります。ただ、それらはオフィスビル・商業施設・マンションなどが主であり、倉庫が有名建築物になっているという例はあまり聞きません。確かに倉庫の構造は巨大な空箱と言うべきものであり、一般的には非常に地味な建築物という印象を持たれがちです。しかし、その建築物としてのスペックは、実は前述の有名建築物をはるかにしのいでいる部分があり、いわば「偉大なる空箱」とでも呼ぶべき存在でもあることはそれほど知られていません。今回はこの倉庫のスペックの高さについて、改めて整理してみたいと思います。
◆ポイントは床荷重と天井高
倉庫が地味なイメージを持たれる主な理由は、内装・外装にそれほど手をかけていないためだと思われます。しかし、その建築物としての基本構造は、特に床荷重(どれくらいの重さの荷物を床に置けるか)と天井高に関して、他の建築物よりかなり高いスペックとなっています。その理由は、倉庫以外の建築物のほとんどが主に「人間」のための施設であるのに対して、倉庫が取扱うのは「貨物」であることにあります。当然ですが、「貨物」の種類は様々で、「人間」より重く、容積が大きいことが少なくありません。人間や家具の重量に対応できればよいオフィス・住宅等の床荷重は300㎏/㎡程度が標準となっているのに対して、倉庫の床荷重は、近年の標準で1.5㌧/㎡と、オフィス・住宅等に比べて実に約5倍に達しています。
たとえば、水は高さ1mに積み上げるだけで、1㎡×1m=1㎥すなわち1㌧に達するため、床荷重300㎏/㎡のオフィスでは重量オーバーです。さらに、倉庫は荷役機器の重さにも耐えられなければならず、たとえばフォークリフトの重さが1㎡当り1㌧強程度はあることも、倉庫床荷重の主流が1.5㌧/㎡になっている理由です。
倉庫が貨物を置く施設であるゆえの特徴として、天井の高さも目立ちます。オフィス、住宅等の天井の高さは3~4m程度ですが、倉庫の天井の高さは一般に5~7mと、普通の建物の2倍前後となっています。これは、貨物を高く積み保管効率を高めるためです。
◆倉庫のスペックの高さを生かした施策の必要性
このような倉庫のスペックの高さは、一般に知られていなくても大抵の場合は支障ありませんが、先の平成28年熊本地震をはじめとした大規模災害では、そのことが大きな問題につながってしまいました。なぜなら、自治体職員の方達等に物資を扱う施設に求められるスペックについて知識がなく、県庁・市役所・体育館等を救援物資用拠点としたため、救援物資が円滑に避難所へ届かないという事態になってしまったからです(物資拠点となった体育館の床が床荷重不足により抜けたこともありました)。その後、物流事業者の倉庫へ拠点を移すことで事態は収拾に向かったことは本誌15号でご説明した通りですが、発災後には直ちに倉庫を物資拠点とすることが望まれます。
しかし、問題となるのは発災後に常に物流事業者等の倉庫が空いているとは限らないことです。そこで注目されるのが、近年活発になっている、倉庫の建築物としてのスペックの高さを活かした他施設へのリフォームです。(たとえば倉庫の床荷重の高さを活かしてダンススタジオにリフォームするなどしています。)この倉庫リフォームを自治体の施設の整備でも取り入れるようにすれば、自治体自身が物資拠点としてのスペックを持つ施設を自ら保有できることになります。そうなれば、発災後に物資拠点に適した施設を自治体がより確保しやすくなるはずです。このような施策は、社会全体にとってもメリットとなることが期待されるのではないでしょうか。