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物流ドローンが変える未来 ~ドローンによる建設資材運搬の実証実験レポート~

物流ドローンが変える未来 ~ドローンによる建設資材運搬の実証実験レポート~

はじめに

アマゾンがドローン配送サービス「Prime Air」を発表したのが2013年。それから10年経ちましたが、カリフォルニア州とテキサス州の新しい拠点でドローン宅配実証実験を積極的に進めており、2023年に入ってから配送先へのマーカー設置を許可したテキサス州の特定顧客に対して追加料金なしで注文から 1 時間以内に処方薬をドローンで届けるサービスを開始しました。またウォルマートのドローン配送実績は7州36店舗で既に1万件を超えており、UPSが2023年の9月に米連邦航空局(FAA)から目視外飛行(=地上での監視要員なしでの長距離飛行)の許可を得たことで「ドローン配達を日常生活の一部にする」ための法規制は米国では徐々に緩和されつつあります。

一方日本では2023年の3月に日本郵便が人家の上空を運行者の目視外で飛ばせるレベル4のドローンを国内で初めて飛行させて、奥多摩の山間部の民家に約1キログラムの貨物を配送して話題になりました。しかしながら、都市部や人口密集地域での飛行制限、安全性とプライバシー保護、形状・重量制限、バッテリーの持続時間、充電施設の整備、遠隔監視する人材の不足などの制約により米国よりも普及が遅れています。

そういった状況下ではありますが、ドローンが日常的に空を飛んでいる未来を少しでも早く実現するために国・市町村、ドローン製造会社、利用ユーザーが協力して進めている実証実験は全国で活発に行われています。今回は「令和5年度 ドローン社会実装促進実証事業」の中で兵庫県、公益財団法人「新産業創造研究機構」(NIRO)、ドローン製造会社「SkyDrive」、建設会社の「征和建設」が協力して兵庫県姫路市で行なった「物流ドローンによる登山道整備のための建設資機材運搬」の実証実験をレポートします。

建設業での資機材運搬の課題

建設業は他の業界に比べて残業時間が多いことから2024年4月以降に残業時間の上限が月平均60時間に規制される「2024年問題」に直面しています。少子高齢化、労働環境要因による従業員の高齢化が進んでおり、運搬作業などの間接業務の比率が約50%と重労働が多いことから若年層から敬遠される傾向があり、2025年には建設業の労働人口が約90万人不足すると予測されています。

労働環境要因による人手不足を解消するための「運搬業務の負担軽減」、「運搬効率の向上」は業界の課題となっており、物流業界同様、AGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)やAMR(Autonomous Mobile Robot:自律走行搬送ロボット)などの自動化機器を導入する建設現場も増えてきました。

しかしながらトラックで運搬できる道路がない山間部の「山地の傾斜面を削る法面(のりめん)工事」「ダムの砂防堰堤(えんてい)工事」「登山道整備工事」などの建設現場では作業者が肩から建設資材や工事機材を背負って歩行で登山をしながら現場まで運ぶ運搬作業が行われています。

今回の物流ドローン実証実験は「登山道整備工事」に焦点を当てたもので、物流ドローンで人肩運搬作業を代替する「運搬業務の負担軽減」を目的としたものです。

登山道整備工事における物流ドローンの実証実験

写真① 登山口にある実証実験の受付会場
写真① 登山口にある実証実験の受付会場

実証実験は姫路市香寺町にある恒屋(つねや)城跡で行われました。ここは豊臣秀吉が1576年に落城させた恒屋城があった場所で、城の遺構本丸、出丸、土塁、堀などが今でも残っており、標高230メートルと登りやすく、登山者が多いことから兵庫県が地元の建設会社に登山道整備工事を依頼しました。

実証実験の視察はまず山頂までの登山から始まります。山頂で行なわれる説明会に参加するためには約30分間の歩行による登山をしなければなりません。これは登山が必要な建設現場の荷役作業がどれだけの重労働なのかを参加者に体感してもらうのが目的とのことですが、登山途中の階段のない場所では大きな石に手と足をかけながら登っていく必要があり、汗をかきながら登っていくのはかなり大変な作業でした。物流コンサルタントの仕事で登山したのは今回が初めてです。

登山途中に空を見上げるとパラパラとプロペラの音を立てて工事用機材を運んでいるドローンが見えました。幸い天候にも恵まれ、秋晴れの空に飛んでいるドローンを見るのは気持ちが良かったです。

写真② 山頂に工事用機材を運搬する物流ドローン
写真② 山頂に工事用機材を運搬する物流ドローン

山頂で行なわれた説明会では関係者による今回の実証実験の詳細説明がありました。実証実験で利用したSkyDrive社の物流ドローンは狭い場所に貨物を降ろすことができるホイスト機構付きで機体重量は35キログラム(2名で持ち運び可能)、最大運搬重量は30キログラム(ホイスト利用時は20キログラム)、最長飛行距離が2キロメートル(荷物30キログラムで1キロメートル行き、空荷で1キロメートル戻ることが可能)。樹木が生い茂った山間部ではドローンが着陸できない場所も多いですが、ホイストがあればドローンの着陸は不要で、空中から生い茂った木の間にまっすぐに荷物だけを降ろすことができます。一般的な杉の木は一番成長しているもので30メートルぐらいの高さということで、今回利用したホイストは40メートルの長さのチェーンを巻いているとのことでした。

写真③ 山頂での説明会(左からSkyDrive社 大黒氏、成松氏、征和建設 橋本社長、 恒屋城保存協会 橋本氏)
写真③ 山頂での説明会(左からSkyDrive社 大黒氏、成松氏、征和建設 橋本社長、 恒屋城保存協会 橋本氏)

説明会の後の質疑応答の中で物流ドローンの課題に関する話がありました。板材は風の抵抗を受けやすいので風速が強い日はサイズを慎重に見極める必要がある、30キログラムの最大運搬重量は工事用機材の部品をばらして運べるギリギリの重量、50キログラムあれば建設業界ではもっと活用ができるとのことでした。

今回の実証実験では離陸場所と着陸場所に各1名、計2名のドローンのオペレーターがいました。遠隔監視する人材の確保も課題になると思われます。

写真④ 山麓の離陸場所でのドローン遠隔監視
写真④ 山麓の離陸場所でのドローン遠隔監視

また今回利用したドローンは前部に2個、後部に2個、合計4個のバッテリーを搭載しており、バッテリーの重量は1個5キログラムなので計20キログラム、ホイストとホイストを稼働させるためのバッテリーが下部に取り付けられていてホイスト本体とホイスト用のバッテリーで10キログラム。バッテリーの重量と持続時間が積載重量と飛行距離を決定するのでバッテリーの更なる軽量化と持続時間も課題になっていると感じました。

写真⑤ 前部に2個、後部に2個、ホイストとホイスト用のバッテリーを下部に搭載
写真⑤ 前部に2個、後部に2個、ホイストとホイスト用のバッテリーを下部に搭載

山頂での説明会の後、山の中腹に建設予定の休憩場所を作るための建材を山麓からドローンで運んで、空中からホイストを使って建材を降ろす現場を見学しました。山麓から中腹の現場まで徒歩で約20分かかりますが、ドローンを使うと5分以内に現場に建材を降ろしていたので、物流ドローンが「運搬業務の負担軽減」、「運搬効率の向上」に確実に貢献できていることが確認できました。

この写真の中の足場の上に置かれている多くの建材は通常は人が肩に担いで登山して現場まで運んでいるので、物流ドローンの「運搬業務の負担軽減」に対する役割と期待がいかに大きいかということを考えさせられました。また普段私達が何気なく通っている登山道の途中にある休憩場所は多くの人達の人肩運搬作業によって作られているということをあらためて認識した次第です。

写真⑥ ホイストによる建材の荷下ろし
写真⑥ ホイストによる建材の荷下ろし

建設現場における物流ドローンの利用

建設現場における物流ドローン利用の可能性についてSkyDrive社の古田氏に伺いました。

当社のHPに詳細を記載していますが、大林組様と共同で人口集中地区(DID: Densely Inhabited District)にある橋梁建設現場での資材運搬の試験運用を実施しました。人口集中地区での飛行には高い安全性が求められ、特別な申請が必要です。試験運用を実施した橋梁建設現場は建設中の構造物と近接することから、構造物に由来する突風や地磁気の乱れなどがあり、重量物運搬用ドローン適用の難易度が高かったのですが、これを成功させました。あと電力業界では送電鉄塔の工事現場でのドローン利用が実証実験を終えて実案件ベースで進んでいます。現時点では土木工事という限定された範囲ではありますが、ここを起点にして物流ドローンの利用範囲の拡大と普及に力を入れていきたいと思っています」

おわりに

今回の実証実験を視察して、物流ドローンが「運搬業務の負担軽減」、「運搬効率の向上」という課題に対して大きな役割を果たしていくことが確認できました。メディア関係者以外に、大手を含めて多くの建設会社の方々が参加されていたので、建設業界内でも注目の試みだったと思います。

現時点ではドローンの利用料、遠隔監視要員の人件費、バッテリーの充電・取付けなどの作業費などを含めると1回の飛行で数十万円の運搬コストがかかるそうです。しかしながら将来的にはドローン本体とバッテリーの軽量化を進めることで積載重量が増えて、飛行距離が伸び、量産化によって運搬コストが下がっていくことが期待できます。全天候型ドローンの開発も進んでおり、冒頭で紹介したアマゾンやウォルマートのように海外では小口貨物を運ぶBtoCでの利用も増えてきました。

日本では少子高齢化により加速するトラックドライバーの減少と貨物の配送量の増加により2027年には約24万人のトラックドライバーが不足してモノが運べなくなる「物流クライシス」が発生すると言われています。

私達が空を見上げると多くの物流ドローンが飛行している姿を見かける日常が実現できれば「物流クライシス」解消の一助になるのでは、その可能性を感じた一日でした。
写真⑦ 山頂にいるスタッフに10人前の出来立てのカレーライスを運搬するドローン
写真⑦ 山頂にいるスタッフに10人前の出来立てのカレーライスを運搬するドローン

(この記事は、2023年11月6日時点の状況をもとに書かれました。)

この記事の著者

◆出身地:大阪府枚方市 ◆血液型:O型 
◆趣味:映画、音楽鑑賞、読書、水泳

1990年 関西大学 法学部 法律学科 卒業
【得意分野】 ・国際物流 ・国内物流 ・営業トレーニング ・SFA導入支援

日本通運大阪支店に駐在し、NX総合研究所の倉庫作業分析ツール「ろじたん」の営業を中心に活動しております。趣味は映画観賞ですが、最近は映画館でなく家でDVDを見ることが多いです。昔のハリウッド映画、中でも「素晴らしき哉、人生!」という1946年に公開された映画が大好きで、クリスマスシーズンになると毎年見て毎年感動しています。この映画の中の「No man is failure who has friends.」(友ある者に敗残者はいない)というメッセージは本当に人生の格言だと思います。欧米では半世紀以上の間、年末にTV放映されているクラッシック映画ですので、興味のある方は是非ご覧下さい。

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