【Message】「物流」という言葉はいつ頃から?
ニュースレター「ろじたす」を発刊して、半年余りが経ちます。難解で読みづらい記事もあったかと思います。書き手としては、どうしても論文張りに全力投球、目一杯の内容の記事を書こうとします。そこをムリくり紙面に収めてきたということもありました。物流のトピックスを肩の凝らない内容にしていくには、もう少し時間がかかるのではないかと思います。引き続き、少しガマンを頂き、ご愛読のほどをお願い致します。
「ろじたす」創刊号で、「物流」という言葉は、当社研究員がPhysicalDistributionという言葉を「物的流通」と翻訳して、それを略して「物流」という言葉が広まったということを紹介しました。今回は、では「物流」という言葉は、いつ頃から一般的に使われ始めたのか、について考えてみたいと思います。
あまりお役に立つ話ではありませんが・・・。
私が会社に入った1970年代後半に使われていた「輸送」「運送」「配送」という言葉は、すっかり「物流」という言葉に取り込まれています。輸送、保管、包装等の概念が、昭和から平成に入った1990年前後に、ロジスティクス(兵站)という概念とともに変化していったのではないかと思われます。
その検証を、三浦しをん「舟を編む」の気分になって、辞書編纂者が新語「物流」を紡いだ時期を、ごくごく簡単に辿ってみたいと思います。新語はメジャーな辞書に採りあげられた時期に、市民権を得たということになるでしょうから。
皆さんに親しみ深い「新明解国語辞典」と「広辞苑」について、そのデビューを辿ってみます。
ちなみに、最新版は、前者は第7版、後者は第6版です。
「物流」という言葉のデビュー版は、次のとおりです。
- ・新明解国語辞典(第4版1989年11月)
【物流】[←物的流通]商品その他の品物を生産地などから消費地などまでに運ぶための包装・荷役・保管・運送の仕事。 - ・広辞苑(第4版1991年11月)
【物流】物的流通の略。物を生産者から消費者へと流通させる上で必要な包装・荷役・保管および情報流通などの諸活動の全体。
読み比べてお分かりのとおり、採りあげた時期も重なりますが、「物流」は新たな用語であり、専門性が強いにもかかわらず、解説内容が極めて類似しています。あくまで推測ですが、両編纂者とも、官公庁、協会、研究機関等に「物流」の定義を問い合わせたフシがあります。
横道に逸れますが、新明解国語辞典は、辞書ブームを巻き起こした「新解さんの謎」(赤瀬川原平)が紹介するとおり、かなり過激な、ここまで書くかと感心するほど際どい説明をしてくれます。その新解さんにしては、「物流」の説明がシンプルすぎるようにも思います。
参考までに、その最高傑作といわれる「恋愛」の解説をみてみますと、次のようになっています。
【恋愛】特定の異性に特別の愛情をいだき、高揚した気分で、二人だけで一緒にいたい、精神的な一体感を分かち合いたい、出来るなら肉体的な一体感も得たいと願いながら、常にはかなえられないで、やるせない思いに駆られたり、まれにかなえられて歓喜したりする状態に身を置くこと。(新明解国語辞典第5版)
営業マンの皆さんは、この新解さんの「恋愛」の項は、どこか共感を覚える部分もあるのではないでしょうか。一所懸命に営業をして、「常にはかなえられないで、やるせない思いに駆られたり、まれにかなえられて歓喜したりする状態に身を置くこと」、ありますよね。
「物流」の解説内容について、新解さんに「恋愛」のような熱意が全く感じられないのは残念ですが、それでも「物流」という言葉をどうにか採りあげてくれたのは、二つの辞書ともに1980年代の後半、すなわち、昭和から平成への移り変わりの頃です。確かに、その頃を前後して、社名を○○運輸から○○物流に変えた会社が増えたように思います。
ちなみに、辞書の特色は、「右」「雨」「恋愛」を引いてみると、その特長、違いが分かるそうです(「国語辞典の遊び方」サンキュータツオ)。
時間と2冊の国語辞典をお持ちの方はどうぞお試しあれ。